抄録
一定の評価票に基づいた医師・看護師等による診療記録のレビューは、有害事象の把握に有用な手法であるが、多くの労力が必要であるほか、信頼性の高い結果を得るには経験を有するレビュー担当者が不可欠であるなどの問題を有する。本研究では、レビューの非専門家による簡易調査票を使用した診療記録の前向き調査により、有害事象を的確に把握できるか検証するとともに、レビューにかかる労力を軽減する方法を検討した。
3 つの医療機関の各 2 病棟の入院患者を対象に、各病院の医師・看護師が簡易調査票を用いて2ヶ月間の前向き調査を行った。前向き調査終了後、改めて研究班の医師・看護師が従来の評価票を用いた後向き調査を実施し、その結果を有害事象の Gold Standard としたうえで、前向き調査の感度・特異度等を算出した。さらに、診療記録のレビューを院内の他の情報源(インシデントレポート、感染報告、入院期間等)で代替できるかを検討した。
後向き調査の結果、8.7%に有害事象が認められた。前向き調査の感度は87.5%、特異度は80.5%、陽性反応適中度は29.2%であった。院内のインシデントレポートの感度は3.0%、感染対策室の把握している情報の感度は20.0%であった。入院期間が長期の患者ではより有害事象に遭遇しやすかった(感度71.0%)。
本研究の結果、診療記録のレビューの非専門家でも、簡易調査票を使用することにより有害事象を高い感度・特異度で発見することができ、簡易調査票の有用性が示された。