日本医療マネジメント学会雑誌
Online ISSN : 1884-6807
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10 巻, 4 号
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原著
  • 藤田 茂, 平尾 智広, 池田 俊也, 兼児 敏浩, 長谷川 敏彦, 長谷川 友紀
    2010 年 10 巻 4 号 p. 563-569
    発行日: 2010/03/01
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
     一定の評価票に基づいた医師・看護師等による診療記録のレビューは、有害事象の把握に有用な手法であるが、多くの労力が必要であるほか、信頼性の高い結果を得るには経験を有するレビュー担当者が不可欠であるなどの問題を有する。本研究では、レビューの非専門家による簡易調査票を使用した診療記録の前向き調査により、有害事象を的確に把握できるか検証するとともに、レビューにかかる労力を軽減する方法を検討した。
      3 つの医療機関の各 2 病棟の入院患者を対象に、各病院の医師・看護師が簡易調査票を用いて2ヶ月間の前向き調査を行った。前向き調査終了後、改めて研究班の医師・看護師が従来の評価票を用いた後向き調査を実施し、その結果を有害事象の Gold Standard としたうえで、前向き調査の感度・特異度等を算出した。さらに、診療記録のレビューを院内の他の情報源(インシデントレポート、感染報告、入院期間等)で代替できるかを検討した。
     後向き調査の結果、8.7%に有害事象が認められた。前向き調査の感度は87.5%、特異度は80.5%、陽性反応適中度は29.2%であった。院内のインシデントレポートの感度は3.0%、感染対策室の把握している情報の感度は20.0%であった。入院期間が長期の患者ではより有害事象に遭遇しやすかった(感度71.0%)。
     本研究の結果、診療記録のレビューの非専門家でも、簡易調査票を使用することにより有害事象を高い感度・特異度で発見することができ、簡易調査票の有用性が示された。
  • 金子 さゆり, 濃沼 信夫, 伊藤 道哉, 尾形 倫明, 三澤 仁平
    2010 年 10 巻 4 号 p. 570-574
    発行日: 2010/03/01
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
     本研究は、看護の必要量を測る尺度である看護必要度にもとづいて看護度分類に重みづけを行い、より簡便な方法によって看護人員配置を行うことが可能となりうる算定指標「看護量調整係数」を開発した。臨床研修病院 6 施設25病棟(内科、外科、混合、ICU)の入院患者延べ3,827名を対象に、看護度と看護必要度に関する横断調査を実施した(2006年10月)。対象者の平均年齢は66.8±16.9歳、平均在院日数は17.3±7.8日であった。看護度と看護必要度の関係から「看護量調整係数」を求めた結果、A-I=1.5、B-I=1.4、C-I=1.3、A-II=1.3、B-II=1.2、C-II=1.1、A-III=1.1、A-IV=1.1、B-III=1.0、C-III=1.0、B-IV=1.0、C-IV=1.0となった。看護の必要量が最も高い場合(A-I)は、最も低い場合(B-III、C-III、B-IV、C-IV)に比べて看護必要量が1.5倍になることが示された。
  • 松本 邦愛, 北澤 健文, 伊藤 慎也, 瀬戸 加奈子, 長谷川 敏彦, 長谷川 友紀
    2010 年 10 巻 4 号 p. 575-582
    発行日: 2010/03/01
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
     近年、日本の医師の不足の問題は大きな関心を集めている。特に、小児科、産科・産婦人科、麻酔科の三診療科は医師不足が深刻であるとされている。しかし、その現状について数量的・包括的に説明した論文はそれほど多くない。本論文は新聞記事検索システムおよび官庁統計を用いて、現在起きている三つの診療科の医師需給問題の構造を明らかにすることを目的とする。
     分析の結果、不足の原因は産科・産婦人科は主として医師の供給側にあるのに対し、小児科および麻酔科は需要側にあることが明らかとなった。まず最も不足が深刻な産科・産婦人科では、医師数が絶対的に減少をしており、少子化の傾向などを考えてもなお問題は医師の供給側にあると考えられる。小児科に関しては、医師数は絶対数では増加しているものの、他科の医師と比べて増加率は低い。地域偏在に関しては、改善は目立って進んでいるとは言えず、医師の集約化も進んでいない。これらに対して、麻酔科医師は、絶対数としても増加しているし、増加率も医師全体の増加率よりはるかに高い。麻酔科医師の不足は、供給要因というよりは医療の質・安全意識の高まりによる麻酔科専門医需要の増大による需要要因と考えられる。
     このように同じ医師不足を抱える診療科でも不足の構造は異なっており、それぞれの診療科の不足状況に合わせた対策が必要となるであろう。
  • 北澤 健文, 松本 邦愛, 伊藤 慎也, 瀬戸 加奈子, 長谷川 敏彦, 長谷川 友紀
    2010 年 10 巻 4 号 p. 583-588
    発行日: 2010/03/01
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
     本研究では、都道府県医療費適正化計画の策定過程における組織体制及び情報分析実施状況などを明らかにし、計画策定における課題及び今後のあり方を検討した。
     医療費適正化計画策定に関して文献調査したほか、47都道府県の計画担当者を対象に自記式アンケート調査を実施した。
     39都道府県から回答があった(回収率83.0%)。都道府県間で計画策定体制及び使用しているデータに大きな違いはみられなかった。委員会・協議会に病院団体が参加している都道府県は半数以下であった。また、計画策定の上で必要性が高いにもかかわらず入手できないデータとして、都道府県別の性・年齢別医療費データのほか、患者調査などの官庁統計の個票などが挙げられた。
     地域医療提供の効率化を図るためには、地域連携クリティカルパスの運用など病院が関連する取り組みも重要であり、今後は病院団体からの参加も求められると考えられる。さらに計画策定に必要なデータ分析を迅速に行えるよう、レセプトデータを含めた国が管理する関連データの利用を可能にする措置が必要と考えられる。
     今後、国には医療費の伸び率抑制に関する目標設定及び生活習慣病対策の実施状況を踏まえた医療費推計方法の開発、検証等が求められ、都道府県においてはステークホルダーの声が十分反映されるような委員会体制の構築及び情報分析体制の確立が必要と考えられる。
事例報告
  • 鈴村 友宏
    2010 年 10 巻 4 号 p. 589-592
    発行日: 2010/03/01
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
     当院では、2003年よりオーダリングシステムを導入し、採血スピッツは採血管準備システムにより管理されてきた。時間内の検査オーダに関してはシステム的に管理されていたが、時間外については対策が不十分であった。オーダ変更時の伝達不足による検査漏れや余剰検査の実施などのインシデント・アクシデントが月に 2 件程度発生しており、年に 1 件程度、重大なアクシデントにつながりかねない患者の取り違い事例も発生していた。
     この問題を解決するにあたりセーフティマネジメントチーム(safety management team:以下、 SMT と略) および、 その下部組織である SMT ワーキングを中心に採血認証システムの導入計画を進めた。SMT ワーキングは看護師、コメディカル、事務から成り、医療安全に関わる組織横断的で実践的な活動を行っている。
     本システムの導入計画においても、看護師、コメディカル、事務からも多角的な意見を出し合いながら、 SHELL 分析による現状の問題点の抽出を行い、 システム化における目標を明確化した上で、医療安全と業務の効率化について配慮したシステムの構築を行った。
     結果として、システム導入後の採血に関するインシデント・アクシデントは、導入前後を各 5 ヶ月間で比較すると12件から 2 件に減少した。又、採血業務における一連の作業行程の効率化により、1 日あたり約190名の採血対象患者の準備作業が、約25名の準備作業となり業務量が約86%削減された。このことからもシステム導入によって最大限の効果が得られたと考える。
  • 小松 佳子, 角田 由美子, 大川 淳, 藤谷 克己
    2010 年 10 巻 4 号 p. 593-599
    発行日: 2010/03/01
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
     従来の転倒・転落対策は、アセスメントシートによる患者の査定やレポート分析結果に基づいて実践されていたが、多様な要因の相互関係が不明確であるために必ずしも根本的な対策になっていなかった。そこで本研究では、転倒・転落における根本的な原因は何かについて、工業分野で使用されている HAZOP 手法を用いて原因構造を明らかにすることを目的とした。HAZOP とは、ある行為を行う上でのあるべき状態や行動に対して“しない”“多い”などの 7 つのキーワードに沿って“ズレ”を生じさせることにより、その行為を行う際のリスク要因を洗い出す分析手法である。この“あるべき状態を行わないとどうなるのか”というリスク要因とその影響との間には因果関係が存在する。さらに分析により抽出された約270の因果関係について、4M4E 手法に照らして原因構造関連図を作成した。その結果(1)人的要因(2)機器的要因(3)環境・情報的要因(4)体制・管理的要因ごとに整理し、4 枚の原因構造関連図が作成された。それにより転倒・転落における多様な要因が複雑に関連した全体構造が明確になったので報告する。
紹介
  • 菊地 盤
    2010 年 10 巻 4 号 p. 600-603
    発行日: 2010/03/01
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
     医療に対する社会の評価は厳しくなってきており、医療訴訟は年々増加している。手術に伴う医療訴訟では、 画像などの具体的な手術記録の提出が求められる場合も少なくない。CCDを通して得られた画像を見ながら行われる内視鏡手術では、手術時の画像記録の保存が病歴として不可欠である。内視鏡手術における客観的な手術記録の保存方法について検討した。KS オリンパス(株)が開発した画像同期記録システムを使用し、術野と外観の画像、麻酔中の心電図、酸素飽和度などのモニターと同期してリムーバブルHDDに記録しランダムアクセス可能なデータとして保存するシステムを開発した。さらに、これらの保存条件を画像の解像度および保存に要するコストの観点から検討したところ、現時点におけるもっともコストパフォーマンスに優れた保存条件は MPEG1、1.5M であることが示された。本システムを運用することにより、内視鏡手術時の情報を客観的に保存することが可能であり、内視鏡手術をはじめとする外科手術の手術記録の保管方法として有用であると思われた。
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