2016 年 13 巻 p. 26-34
2006年に社会人基礎力が経済産業省により提唱されて以来,社会人基礎力の育成は主要な大学教育の1つとなっている.一般に,社会人基礎力は,「前に踏み出す力(アクション)」,「考え抜く力(シンキング)」,「チームで働く力(チームワーク)」という3つの力で構成されている.さらに各力は,それぞれ3〜6の能力要素によって構成されている.最近,課題解決型学習やキャリア教育など社会人基礎力の育成を目的とした教育プログラムが大学教育において促進されている.その一方で,体育実技授業などの既存授業が社会人基礎力に及ぼす教育効果は不明瞭なままである.本研究では,体育実技授業が社会人基礎力の向上に及ぼす教育効果を明らかにするために,大学の既存の体育実技授業の受講による社会人基礎力の変化を検討した.さらに,体育実技授業への介入授業を実施し,社会人基礎力がより一層向上するか検討した.その結果,授業最終回の「考え抜く力(シンキング)」のスコアは,授業初回のスコアに比べ有意に増加していた(p<0.05).同様に,「チームで働く力(チームワーク)」のスコアも授業初回に対し授業最終回で有意に増加していた(p<0.05).さらに,社会人基礎力の3つの力を構成する能力要素である“創造力”,“発信力”,“柔軟性”及び“状況把握力”において授業初回に対し授業最終回でそれぞれ有意な増加を示した.一方で、授業介入による社会人基礎力のより一層の向上は認められず,介入手法の改善など今後の検討がさらに必要である.本研究は,大学での体育実技授業により社会人基礎力が向上したことを示すと同時に,既存授業である体育実技授業には社会人基礎力の改善を促す教育効果が本来的に備わっている可能性が示唆された.