大学体育学
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原著論文
  • 瀧本 真己, 木内 敦詞, 石道 峰典, 中村 友浩, 西脇 雅人
    2018 年 15 巻 p. 3-11
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:本縦断研究は,大学体育授業における文章記述状況が学期前後のライフスキル獲得に与える影響について検討することを目的とした.方法: 273名の男子大学生を対象に,学期期間中に,10回の実技授業を実施し,これに関する授業内容の振り返りをワークブックに記述させた.学期期間後に全てのワークブックを回収し,各回の記述欄に書かれていた文章数を算出した.また,体育実技授業の実施前と実施後に,大学生版日常生活スキル評価尺度を用いて,ライフスキルの変化量を調査した.文章記述状況とライフスキル獲得の分析では,感想文1回あたりの平均文章数の昇順に対象者を3群(下位群,中位群,上位群)にわけ,各ライフスキルのスコアと個人的スキル,対人スキル,ライフスキルの総合スコアの差とトレンドを検討した.結果:学期前後のライフスキルを比較した結果,情報要約力,リーダーシップのスコアと個人的スキル,対人スキル,ライフスキルの総合スコアが学期後に向上した(P < 0.01).共分散分析は, 年齢, 課外活動の有無, 居住形態, ライフスキルの初期値といった交絡因子を補正した後に, 文章の記述が増すに伴い,計画性,情報要約力,感受性のライフスキルに有意な上昇のトレンドが認められたことを示していた(P < 0.05).また,個人的スキルにおいても上昇のトレンドの傾向が観察された(P = 0.055).結論:これらの知見は,学生が大学体育授業の感想を記述する際,文章数を多く記述するといった十分な文章記述状況であると,計画性と情報要約力,感受性のライフスキルがより増大することを示唆していた.

事例報告
  • 中澤 謙, 西原 康行
    2018 年 15 巻 p. 12-21
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル オープンアクセス

    省察的実践は専門家がその実践経験から学びを得るスキルである.自分の授業を改善するためには,教員自身の経験に基づく授業省察による,課題と解決方法の明確化が不可欠である.省察的実践を見直す方法としてオンゴーイング法と授業日誌法が挙げられる.オンゴーイング法は授業実践中の授業認知を呟き記録する方法で,授業日誌法は授業後に授業実践を振り返り,記述を通して暗黙的な授業認知の明示化を図る方法である.オンゴーイング法と授業日誌法を併用し,省察的実践を見直し授業を改善する方法の検証を本研究の目的とした.オンゴーイング法による発話記録を「認知」「課題」「見通し・改善案」「肯定的捉え」「気づき」に分類し,その出現数を量的に評価した.日誌記述を「具体的な学生の姿」「用いた手立て」「状況の解釈や判断」「手立てを用いた理由」「教授上の示唆」に分類し,授業認知過程の整理・分析を行った.本研究で得られた知見は以下の通りである.

    ①オンゴーイング法による発話記録及び授業日誌法により整理された日誌記述の分析を通し,教員の授業認知過程が明らかになった.

    ②オンゴーイング法の実施により,教員のメタ認知が施されて学生の姿及び授業技能の認知が行われた.

    ③暗黙的な授業中の認知は日誌記述の過程で明示化され,次時授業に向けて認知・判断の枠組みが修正された.

    ④授業日誌法を通して修正された認知・判断の枠組みを手掛かりにし,授業実践中に学生の姿及び教員の授業技能の認知が行われた.

    ⑤発話記録と日誌記述の分析により,③,④による循環的な授業の見直しでは授業がうまく進行しなくなり,否定的フィードバックを用いた授業場面における教員による学生の姿の認知の特徴が抽出された.

    ⑥上記場面において,授業実践中の教員の情意過程はオンゴーイング法によりメタ認知され,授業後に授業日誌法により捉え直されていた.その結果,教員の学生の姿・授業技能に対応する認知の枠組みが修正された.

  • 金田 晃一, 引原 有輝
    2018 年 15 巻 p. 22-30
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,ゴルフを題材にした大学体育授業が社会人基礎力に対してどのような影響をおよぼすのかを検討するために,週1回の学期授業として学内施設のみを用いて実施されるゴルフ授業と集中授業として宿泊を伴うラウンド実習を含んだ学外施設も利用して実施されるゴルフ授業を対象として比較・検討を行うことを目的とした.本研究の対象者は,学期授業として開講されるスポーツ科学「ゴルフ」の受講学生18名と,集中授業として開講される集中スポーツ科学「ゴルフ」の受講学生21名であった.いずれの授業においても3名でのグループワークを基本としたアクティブラーニングおよびPBL型授業を展開し,ゴルフスイングの技術習得を主な目的とした.また,授業中にはグループワークを活性化する目的でiPadminiおよびM-Tracerを使用したスイング分析を実施した.受講生には授業の前後に社会人基礎力評価シートを用いてアンケートを実施し,社会人基礎力を構成する12の能力要素について評価した.その結果,スポーツ科学を受講した学生は主体性,働きかける力,実行力,課題発見力,発信力が授業前と比較して授業後に高い値を示し,集中スポーツ科学を受講した学生はすべての能力要素について授業前と比較して授業後に高い値を示した.これらのことから,アクティブラーニングおよびPBL型で展開されるゴルフスイングの技術習得を主な目的とした授業は,受講生の主体性,働きかける力,実行力,課題発見力,発信力といった社会人基礎力を向上させる可能性が考えられた.さらに,宿泊を伴うラウンド実習を含んだ学外施設を利用して実施される集中授業として構成することは,受講学生の社会人基礎力を全般的に高める可能性があることが示唆された.

  • —大学3・4年生を対象とした授業の分析を通じて—
    栫 ちか子, 松元 隆秀, 佐藤 豊, 金高 宏文
    2018 年 15 巻 p. 31-45
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル オープンアクセス

    現行の学習指導要領では中学校第1学年及び第2学年において,「ダンス」を含むすべての領域を履修することとなり,体育系大学の「ダンス」の授業においては,保健体育科教員免許の取得を希望する学生が多く履修している.教員養成を担う大学の授業では,「実践的指導力」の養成が求められているが, ダンス授業においても,示範等に必要なダンスの運動技能向上のみならず,技能評価力を育成することは必須の課題である.

    本研究では,体育系大学のダンスの授業において,ICTを活用したダンス映像視聴・評価活動を取り入れた授業を行い,その実践と学習効果の可能性について検討することを目的とした.授業では,タブレット端末(iPad)を用いて動きを撮影し,撮影された映像を視聴しながら自分や仲間の動きについて省察を行った.また,授業映像を学内のe-learningシステムにアップし,授業ノートの作成を通して授業の振り返りを行った.その結果,ICTを活用したダンス映像視聴・評価活動を含む授業実践は,運動技能の改善や技能評価の理解に有効であり,授業の振り返りにおいても,授業内及び授業終了後においての指導内容の確認・活用,合意形成的思考の育成に貢献しうることが示唆された.また,ペアやグループでの課題解決型学習を積極的に取り入れることが,主体的態度や協力・公正的姿勢を育む上で重要であると考えられた.

  • 中井 聖
    2018 年 15 巻 p. 46-56
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は,(a) 集団種目グループ学習,個人種目グループ学習,多種目一斉学習という3種類の大学体育実技授業の実施前後のライフスキルの獲得状況を調べること,(b) 授業実施後のライフスキルの変化について検討することであった.前述の学習形態の体育実技授業を受講している103名の大学生を対象に,授業の実施前後に日常生活でのスキル(すなわちライフスキル)およびスポーツ場面でのスキル(以下,スポーツ状況スキルと呼ぶ)について質問紙法による調査を行った.授業実施前後とも,全ての学習形態のスポーツ状況スキルの合計得点は同等であったのに対して,多種目一斉学習型の日常生活スキルの合計得点は他の学習形態よりも高かった.授業実施後の下位スキルのうち,多種目一斉学習型のスポーツ状況での創造的思考のみが向上したのに対して,いくつかのスポーツ状況での下位スキルは低下した.よって,授業実施によって生じたスポーツ状況スキルの変化は,学習形態間の日常生活スキルとスポーツ状況スキルの全体的な傾向に影響しなかった.加えて,スポーツ状況スキルの合計得点は,日常生活スキルの合計得点およびスポーツ経験の量と正の相関関係があったが,日常生活スキルの合計得点とスポーツ経験の量との間に相関関係はなかった.これらの結果は,より多いスポーツ経験がスポーツ状況スキルを高めるが,直接的にはライフスキルを向上しないであろうことを示唆している.したがって,ライフスキルを効果的に高めるためには,体育実技授業のスポーツ経験から引き起こされたスポーツ状況スキルの変化を般化させる授業担当者による働きかけが必要であると思われる.

研究資料
  • 舛本 直文, 小林 勝法, 後藤 光将, 師岡 文男
    2018 年 15 巻 p. 57-62
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は、2012年ロンドン大会時に展開されたPODIUMを分析することよって、その目的、活動内容、成果等を明らかにすることである。そのために、先ず第1にPODIUMの活動内容を分析し、第2にJOAの特別コロキウムでのPODIUMに関する情報交換内容を分析した。以上の分析において、主にPODIUM発行の資料、JOA特別コロキウムでの報告資料を対象にした。さらに、Haley事務局長へのインタビューによって本分析を補完することにした。PODIUMでは、組織的には、専従の人員確保とイギリス政府からの補助金による運営、事務所の設置やLOCOGとの連携が活動上には重要であったこと。特に、第2エンブレムとしてInspire Markの使用、e-mailアカウントにac.の利用による信頼性の担保による効果が大きかったことが指摘されている。PODIUMのプログラム的には雇用やボランティアの組織化とトレーニング、情報発信と共有化や、ベストプロジェクトの表彰などインセンティブにも配慮したプログラム展開が効果的であったこと。PODIUMの情報発信にはSNSやウェブサイトが重要なツールであったことなどである。教育・研究面では、新設コースの導入、学生の体験、研究プロジェクトへの参加、奨学金提供、競技や地域貢献活動によるイメージ構築、研究リソースの作成、公的機関やNPO、民間企業とのパートナーシップの構築などが有効な活動であった。日本への示唆として、早期の組織の立ち上げや戦略的な計画の必要、学内理解の推進やオリンピック・パラリンピックに関する教育・研究活動の評価などの重要性が指摘されていた。PODIUMの組織や活動に比べ、日本の大学連携では、事務局の人的・物理的組織化と予算化、事務局常駐者によるSNSを駆使した情報発信、イベント企画や学会などの会合調整、2020年大会組織員会や各種団体との連携など、いずれも未整備の状況にある。日本の大学連携事業には組織面とイベントや研究を含む事業面ともに、多くの課題があることが示唆された。

  • 島本 好平, 山本 浩二
    2018 年 15 巻 p. 63-71
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は,大学体育授業における自己開示のライフスキル(Life skills:以下,LS)獲得への影響における,心理社会的な成長につながる気づきの媒介効果を明らかにすることであった.研究は予備調査と本調査からなり,両調査とも2015年4月に関西地区の国立大学(教育学部)に入学した新入生を対象に実施された.2015年の前学期中盤に実施された予備調査(n=140,有効回答率81.4%)では,体育授業におけるスポーツ活動,ならびに多様な他者とのコミュニケーションの中での自己開示を通じて学生たちが得てきている気づきに関する374の記述が収集された.そこから,心理社会的な成長につながる気づきを評価する項目として採用する19の記述が選出された.同年前学期終盤に実施された本調査(n=155,男性57名・女性98名,平均年齢18.37±0.56歳,年齢幅18〜21,有効回答率90.1%)では,対象者に対して,①予備調査で選出された心理社会的な成長につながる気づきを評価する項目群,②体育授業における自己開示の経験を評価する尺度,③大学生のLSを評価する尺度,がそれぞれ実施された.まず,①の項目群に探索的因子分析を実施した結果,本研究における主要な因子となる,「心理社会的な成長につながる気づき」と命名された1因子が抽出された.次に,体育授業における自己開示のLS獲得への影響における同因子の媒介効果を構造方程式モデリングにより検証した結果,気づきは自己開示による自尊心への負の影響,および対人的なLS(感受性,対人マナー)への正の影響をそれぞれ媒介していることが示された.加えて,先行研究で示されている,自己開示のLS(自尊心,親和性,リーダーシップ,感受性)獲得への直接的な正の影響も追認された.最後に考察では,自己開示の経験促進に焦点を当てた体育授業の実践案が述べられた.

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