2021 年 1 巻 2 号 p. 93-97
花粉-食物アレルギー症候群(Pollen-food allergy syndrome:PFAS)は,吸入花粉抗原によって引き起こされる口腔アレルギー症候群であり,原因となる果物を摂取後,数分以内に口唇・口腔の掻痒感,しびれ,粘膜浮腫をきたす疾患である。重症例ではアナフィラキシーを生じることもある。我々はPFASの病態を解明するためにモデルマウスを作製した。シラカンバ花粉で免疫したマウスにリンゴエキスを経口投与すると,口かき回数の有意な上昇を認めた。FcεR1a欠損マウス,肥満細胞欠損マウスでは,野生型マウスに比べて口かき回数は有意に低下した。シラカンバ花粉で免疫したマウスへのリンゴエキス経口投与は,口腔粘膜への好酸球浸潤や,口腔粘膜局所のTh2細胞活性化を認めなかった。Bet v 1特異的IgEとリンゴエキス由来のアレルゲンとの交差反応によるIgEシグナリングを介した肥満細胞の活性化が,PFASの即時相としての口腔症状を誘発する。一方で,一般的なアレルギー反応でみられる遅発相としての口腔粘膜局所でのTh2/好酸球性炎症は,アレルゲンの刺激によって誘導されない。PFASモデルマウスを利用した基礎研究は,PFASの病態を明らかにし,PFASに対する有効な治療法を供給できる可能性が期待できる。本稿では,モデルマウスを用いたPFASの病態について解説する。