日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌
Online ISSN : 2435-7952
総説
ウイルス性頭頸部癌の発癌・転移機構
近藤 悟
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2021 年 1 巻 3 号 p. 123-127

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抄録

中咽頭に存在する口蓋扁桃,上咽頭に存在する咽頭扁桃は,ワルダイエル輪を構成する免疫装置である。上咽頭にはエプスタインバールウイルス(EBV)に関連する上咽頭癌,中咽頭にはヒト乳頭腫ウイルス(HPV)に関連する中咽頭癌が惹起される。この狭い領域に異なったウイルスにより悪性腫瘍が発生する機序は明らかではないが,これまでの研究から少しずつその病態が解明されつつある。

上咽頭癌は高転移性の癌である。上咽頭癌の病態形成には,EBV癌遺伝子の潜伏膜蛋白1(LMP1)が重要である。例えば,LMP1はSiah1という低酸素関連分子を介し血管新生を誘導することで転移を促し,その発現は予後不良因子であることが分かってきた。そして,LMP1は浸潤・転移だけでなく発癌のイニシエーションのステップに重要な「癌幹細胞」性を誘導する必須因子である。

一方で,先進国でHPVによる中咽頭癌の発症が急激な増加が問題である。正常口蓋扁桃にも発現する内因性免疫APOBEC3が発癌のトリガーのインテグレーションを誘導することが分かってきている。

なぜ,これらの二つの悪性腫瘍の母地が異なるのか理由は分かっていない。EBV関連上咽頭癌組織中のHPV陽性率を検討すると,HPV陽性例はほとんど認めないこと,非腫瘍性の口蓋扁桃と咽頭扁桃のEBV量を検討すると,小児期には咽頭扁桃にEBV量が多いことから,EBVの咽頭扁桃への組織特異性が示唆される。今後,さらにこれらのウイルス発癌の研究を継続し,新規治療の開発につなげることを期待する。

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© 2021 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
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