2022 年 2 巻 4 号 p. 165-168
わが国の代表的なスギ花粉症が1964年に初めて報告された。経済成長とともに伐採されなくなったスギ林の面積と大量の花粉を産生する林分が増加して罹患数増加が見られ,1980年代には国の問題として対策が取られた。1993年から耳鼻科・他科医療家を対象に「鼻アレルギー診療ガイドライン」が作成され,改訂が重ねられている。治療の種類は増加し,花粉症患者の増加と重症化がうかがわれる。スギ花粉舌下免疫療法の効果が確実で適応範囲も拡大されている。抗原花粉の調査結果はヒノキ科を主に,カバノキ科,ブナ科などの樹木花粉,草本の春のイネ科,秋のキク科などが挙げられている。長期調査の結果,スギ属の花粉前線が北上しており,ヒノキ科捕集数は年次変動を反復しながら全国的に増加し,気候変動による気温上昇と相関している。ブナ科花粉捕集数が漸増している。
花粉症は標的器官が複数で,発見当時より全身疾患として捉えられていた。耳鼻科・眼科症状は必発で,下気道症状の増悪,皮膚症状の眼瞼・顔面皮膚炎,アトピー性皮膚炎の全身悪化など臨床的に重要である。2000年頃からpollen food allergy syndrome(PFAS)が注目されるようになってきた。北海道のシラカンバ花粉症とバラ科果実の食物アレルギーの高率な併存が報告されている。九州に位置する当科で,少数であるがPFASと診断された症例はヒノキ科,コナラ属,イネ科に感作され,ウリ科,ナス科,バラ科の食物で誘発され,地域性が見られた。