日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌
Online ISSN : 2435-7952
2 巻, 4 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
総説
  • 大久保 公裕
    2022 年 2 巻 4 号 p. 121-128
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    舌下免疫療法(SLIT)は,1986年にScadding GKによって通年性アレルギー性鼻炎に対して初めて報告された。我々は日本医科大学倫理委員会の承認を得て,2000年からスギ花粉症に対するSLIT open studyを実施した。2004年厚生労働省の免疫学的疾患克服研究事業の一環として,スギ花粉症に対するSLITの二重盲検比較試験を行い,2005年にはスギ花粉の飛散が多い時期のスギ花粉症にSLITが有効であることを発表した。スギ花粉症に対するSLITの有効性は明らかであり,さらに錠剤タイプのSLITを3年間投与した後の実薬に対する後影響を二重盲検比較試験で報告し,試験終了後にIgEとIgG4に差があることを明らかにした。これらの抗体の産生について,さらなる検討が必要である。

    1991年にFcε受容体Iの受容体であるCε3に特異性を有するヒト化モノクローナル抗体ruMAbE25(オマリズマブ)が開発され,現在すでに重症気管支喘息,重症蕁麻疹に世界的に適応がある。スギ花粉症に対するオマリズマブの臨床試験は2002年に開始され,2018年には,既存治療薬に抵抗性を示す重症スギ花粉症に対する臨床試験が実施された。抗ヒスタミン薬と鼻噴霧用ステロイドにより,症状が残る重症スギ花粉症患者さんの鼻症状および眼症状のスコアがプラセボよりも有意に改善され,オマリズマブの重症花粉症に対する2019年の適応取得につながった。今後も,新しい治療法開発で一般臨床の場に活用できるよう,研究を進めていく。

  • 神前 英明
    2022 年 2 巻 4 号 p. 129-135
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    上気道における代表的な好酸球性炎症,アレルギー性炎症をきたす疾患として好酸球性副鼻腔炎,アレルギー性鼻炎があげられる。

    好酸球性副鼻腔炎は,手術後も再発が多いため,難治性疾患として扱われている。その病態として,抗原の感作なしに2型炎症を誘導する自然型アレルギーの関与が強いことが知られている。上皮細胞から産生された上皮由来サイトカイン(TSLP, IL-25, IL-33)は,2型自然リンパ球(ILC2)や病原性記憶Th2細胞を介して大量の2型サイトカイン産生を誘導し,好酸球浸潤,ムチン産生,杯細胞の過形成など,好酸球性副鼻腔炎に特徴的な組織像が形成されると考えられる。近年,病態の解明に伴うバイオ製剤の登場により,恩恵を得られる患者が増えている。

    アレルギー性鼻炎は,世界中で患者が増加しており,本邦では人口の半数が罹患していると推定される。アレルゲン免疫療法は,アレルギー性鼻炎に対する高い有効性が示され,長期的な寛解や治癒が期待できる唯一の方法である。アレルゲン免疫療法の作用機序は,IL-10,IL-35,TGF-β,IgG抗体の増加および制御性T細胞の誘導によって特徴づけられる免疫寛容の獲得に基づいている。しかしながら,アレルゲン免疫療法を行うことでなぜ長期寛解が得られるか,その全貌はまだ明かにされていない。

    いずれも2型炎症またはIgE依存的アレルギー炎症が特徴となる疾患で,これらの炎症を制御することが治療につながると考えられる。我々が行ってきた研究を中心に,好酸球性副鼻腔炎の病態と,アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法の作用機序について解説する。

  • 木戸口 正典
    2022 年 2 巻 4 号 p. 137-139
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    スギ花粉症は近年増加傾向にあり,舌下免疫療法(sublingual immunotherapy: SLIT)は唯一の根治治療として注目されているが,長期治療にも関わらず効果が乏しい症例が一定数存在するため,SLIT開始時に応答性を予測するバイオマーカーの開発が望まれている。スギ花粉抗原ペプチドCry j 1はHLA class II遺伝子領域に結合することが判明しており,今回,薬理遺伝学的な視点からHLA遺伝子多型とスギ花粉の感作・SLIT応答性との関連を検討した。まず,学生コホート544例を対象としてHLA遺伝子多型とスギ花粉の感作について分析したところ,HLA-DPB1*05:01がスギ花粉に易感作を示した。次に,スギ花粉SLIT患者203例を対象としてHLA遺伝子多型とSLITへの応答性を分析したところ,HLA-DPB1*05:01を保有するスギ花粉症患者は保有しない患者と比較してSLITに対する不応性が確認された。これらは,Cry j 1結合ポケットであるHLA-DPβ1のアミノ酸による立体構造的変化とそれぞれ関与していた。さらに,実臨床での応用を前提として遺伝子多型に特異的な一塩基多型(tag SNP)を同定し,従来のHLA遺伝子決定法より簡便に安価で検査可能な方法を確立した。HLA遺伝子多型がSLITの薬理遺伝学的バイオマーカーとなる可能性が示唆された。

  • 雑賀 あずさ, 國澤 純
    2022 年 2 巻 4 号 p. 141-145
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    食品成分や腸内細菌から形成される腸内環境は,我々の健康維持において重要な役割を担う。特に,食品由来の脂質に含まれる脂肪酸は,生体や腸内細菌を介した代謝により機能性脂肪酸代謝物に変換され,アレルギーや炎症反応に関わる免疫機構など様々な生理機能に影響を与える。一方,食品成分を基質として生体内で代謝・産生される機能性代謝物の産生能力は,我々自身や腸内細菌がもつ代謝酵素の活性を中心に様々な要因の影響を受けて決定される。従って,有益な生理機能を発揮する代謝物を生体内で産生できない場合には,期待通りの健康効果を得ることができないと予想される。つまり,一般に健康に有益な効果をもたらすことが知られている機能性食品素材においても,摂取した際の健康効果には,代謝の違いにより個人差が生じると考えられる。

    本稿では,腸内環境を介して産生される機能性代謝物のうち,食事性脂質由来のオメガ3脂肪酸を基質として産生される脂肪酸代謝物が持つ免疫制御機構について,新規医薬品素材や機能性食品素材としての応用展開の可能性を含めて紹介する。さらに,腸内細菌叢を含めた個人差を考慮した層別化・個別化栄養システムに向けての取り組みについて,我々が得た最新の知見を交えて紹介する。

  • ~長期経過について~
    安松 隆治
    2022 年 2 巻 4 号 p. 147-151
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    再発・転移頭頸部癌に対する治療として2017年に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)であるニボルマブが保険収載され5年余りが経過した。2019年にはペムプロリズマブが再発転移頭頸部癌を対象に適応拡大され,現在日常臨床ではICIによる治療が主流となっている。本稿ではICI治療による長期経過を解析し再発・転移頭頸部癌治療の現状と課題について解説する。

  • 齋藤 善光, 小森 学
    2022 年 2 巻 4 号 p. 153-159
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    2019年12月に中国・武漢で原因不明の肺炎として報告されて以降,この新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染は全世界に拡大した。日本国内では,2020年1月16日に初めて患者が報告され,その後は変異株の出現や流行に伴い,感染者数が増減を繰り返しているものの,ワクチンを含めた予防,感染対策や治療が確立されつつある。その一方で,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した一部の患者に,種々の後遺症が出現すると報告されており,その病態はいまだ不明点が多く確立した治療法が存在していない。昨今,このCOVID-19後遺症に対して慢性上咽頭炎の治療法である上咽頭擦過擦過療法(epipharyngeal abrasive therapy:EAT)の有用性が報告され,耳鼻咽喉科・頭頸部外科医によるCOVID-19後遺症への治療介入が注目されている。

    当院では,COVID-19後遺症患者に対しEATを実施し,自覚症状によるアンケート調査を行った。その結果,EAT施行前後にて自覚症状の改善率は79.6%の症例で改善傾向を示し,7割以上症状が改善を認めた症例は20.4%認めた一方で完治した症例は4.1%のみであった。

    COVID-19後遺症は,いまだ明確な治療法が確立されていない状況で,社会生活へ強い影響を生じている患者も少なくない。EATは通常診療の中で施行可能な簡便な手法で安全性も高く,治療の選択肢の一つとして再検討する余地があると考えられた。しかしながら,完治する症例は少なく,今後より効果的な新たな治療法が解明されることを期待したい。

  • 伊東 慶介, 植木 重治
    2022 年 2 巻 4 号 p. 161-164
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    近年,IL-5や好酸球をターゲットとした治療が普及しつつあり,好酸球の生体内での役割をより正確に理解する必要性が増している。耳鼻科領域でも,好酸球はアレルギー性鼻炎,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症,好酸球性副鼻腔炎,好酸球性中耳炎などの病態を考える上で欠かすことのできない細胞である。刺激により活性化した好酸球のプログラム細胞死(ETosis)と,それによって放出される顆粒蛋白,細胞外トラップやシャルコー・ライデン結晶の形成が明らかになり,病態への影響が明らかになりつつある。

  • ―花粉症は全身疾患―
    岸川 禮子
    2022 年 2 巻 4 号 p. 165-168
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    わが国の代表的なスギ花粉症が1964年に初めて報告された。経済成長とともに伐採されなくなったスギ林の面積と大量の花粉を産生する林分が増加して罹患数増加が見られ,1980年代には国の問題として対策が取られた。1993年から耳鼻科・他科医療家を対象に「鼻アレルギー診療ガイドライン」が作成され,改訂が重ねられている。治療の種類は増加し,花粉症患者の増加と重症化がうかがわれる。スギ花粉舌下免疫療法の効果が確実で適応範囲も拡大されている。抗原花粉の調査結果はヒノキ科を主に,カバノキ科,ブナ科などの樹木花粉,草本の春のイネ科,秋のキク科などが挙げられている。長期調査の結果,スギ属の花粉前線が北上しており,ヒノキ科捕集数は年次変動を反復しながら全国的に増加し,気候変動による気温上昇と相関している。ブナ科花粉捕集数が漸増している。

    花粉症は標的器官が複数で,発見当時より全身疾患として捉えられていた。耳鼻科・眼科症状は必発で,下気道症状の増悪,皮膚症状の眼瞼・顔面皮膚炎,アトピー性皮膚炎の全身悪化など臨床的に重要である。2000年頃からpollen food allergy syndrome(PFAS)が注目されるようになってきた。北海道のシラカンバ花粉症とバラ科果実の食物アレルギーの高率な併存が報告されている。九州に位置する当科で,少数であるがPFASと診断された症例はヒノキ科,コナラ属,イネ科に感作され,ウリ科,ナス科,バラ科の食物で誘発され,地域性が見られた。

原著論文
  • 杉田 麟也, 杉田 玄, 朝倉 清, 大川 洋, 長谷部 智之, 柳沢 英二
    2022 年 2 巻 4 号 p. 169-177
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    異臭を訴える患者は嫌気性菌感染症であることは予測される。しかし,本邦では歯性上顎洞炎の原因菌について納得できる研究が行われていない。異臭を訴える片側性副鼻腔炎についてルーチン検査の範囲内で好気性嫌気性菌培養を行い,さらに歯性上顎洞炎であることの確認目的でコーンビームCT検査を行った。3年10ヵ月で50例,72株の細菌を分離同定した。微好気性連鎖球菌13株,偏性嫌気性菌59株(81.9%)であり,鼻汁を嫌気ポータに摂取出来なかった3例は好気性菌を検出した。嫌気性菌グラム陰性桿菌(AGNR)のFusobacterium nucleatum 45.8%,Prevotella 30.5%と多数を占め,グラム陽性球菌のParvimonasは22.6%にすぎない。1985年の口腔外科医によるとVeillonellaPeptostreptococcusが80%でグラム陰性桿菌Bacteroides 2.9% Fuso 0%に過ぎない。著者らが報告したAGNRは酸素感受性で厳密な酸素管理をしないと死滅しやすく,コロニー形成に時間がかかるので培養条件が守られないと検出率低下につながる。コーンビームCT及び東京歯科大の診察結果によると50例すべてが歯性上顎洞炎と診断された。原因は根尖炎,根尖のう胞,インプラントなど異物,抜歯後閉鎖不全などであった。3種類の嫌気性菌の抗菌剤感受性はLVFX,CAM,AZM,CLDMは耐性で,CVA/AMPCが優れていた。25例中22例はCVA/AMPC+AMPC 1,500 mg,分3,7日間投与で悪臭,膿汁が停止した。悪臭の原因は嫌気性菌が産生するガスと考えた。

  • 室野 重之, 垣野内 景
    2022 年 2 巻 4 号 p. 179-183
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    スギ花粉症は今や国民病と言われる季節性の疾患であり,セルフケアやメディカルケアのためには,スギ花粉の飛散予測が重要である。我々は,過去20年間のスギ花粉の飛散に関するデータおよび気象データにより飛散開始日と総飛散数を予測するモデルを作成し,2021年に報告した。一方,スギ人工林の林齢や構成,保全・管理など森林環境の変化や,地球規模での気候変動の影響などから,過去20年間余のデータに基づく予測よりも,最近の10年間のデータに基づく予測の精度が高いのでは,と考え検証した。過去20年間余の旧モデルと最近10年間の新モデルを用いて,飛散開始日を予測したところ,2011年から2020年までの10年間の予測日と実測日の誤差の平均は,それぞれ2.40日と2.00日であった。総飛散数の予測でも,過去20年間余の旧モデルと最近10年間の新モデルでの2012年から2022年の11年間における予測総飛散数と実測総飛散数の間の相関係数はそれぞれ0.922,0.962であった。飛散開始日の予測,総飛散数の予測のいずれにおいても,最近10年間のデータに基づくモデルの方が優れており,モデルは定期的に見直す必要があると考えられた。

  • 金沢 弘美, 島崎 幹夫, 江洲 欣彦, 吉田 尚弘
    2022 年 2 巻 4 号 p. 185-189
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    外耳道真菌症の多くは表在性で局所治療にて治癒に至ることが多いが,局所治療が無効で進行性鼓膜穿孔を生じるアスペルギルスによる耳感染症が存在する。

    今回我々はアスペルギルスにより進行性鼓膜穿孔を生じ,内服により真菌感染を制御した3例を報告する。各症例は自覚症状が耳痛,耳漏と異なり,一般的な局所処置や外用薬では治療効果が得られず抗真菌薬内服により治癒に至った。各症例に共通する点として,β-D-グルカンの上昇を認めていなかった。1症例はAspergillus nigerによる急性発症であり鼓膜穿孔を閉鎖することができたが,残りの2症例はAspergillus fumigatasによる慢性経過であり,最終的に鼓膜穿孔は残存し,外耳道まで広範囲に粘膜が欠損し骨露出を認めた。

    進行する鼓膜穿孔は,外耳道や鼓膜上皮の皮下膿瘍の発症後に,周囲に真菌性血栓が発生し,これに伴った鼓膜の無血管性壊死により出現する。早期治療により自然に鼓膜穿孔の閉鎖に至ることができるが,慢性化した場合には,周囲粘膜へ進展し,広範囲の組織障害を残す。β-D-グルカンが必ずしも陽性になるとは限らず,局所所見から抗真菌薬内服を選択することが大切である。

症例報告
  • 近藤 泰, 車 哲成, 楊 鈞雅, 川出 由佳, 有元 真理子, 内田 育恵, 小川 徹也, 藤本 保志
    2022 年 2 巻 4 号 p. 191-196
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    アレルギー性真菌鼻性副鼻腔炎(allergic fungal rhinosinusitis: AFRS)は,著明な好酸球浸潤をきたす再発率の高い難治性鼻副鼻腔炎である。今回我々は,副鼻腔computed tomography(CT)にて広範囲に頭蓋底骨欠損が疑われ,浸潤性副鼻腔真菌症や悪性腫瘍との鑑別が必要であったAFRS症例につき報告する。症例は21歳男性。他院での慢性副鼻腔炎の治療経過中に,強い頭痛,発熱が出現し,某総合病院救急外来を受診した。眼球突出とCTにて前頭蓋底・右眼窩壁・蝶形骨洞に骨欠損を認め,当科へ救急搬送された。全身麻酔下に内視鏡下副鼻腔手術を施行した。右後部篩骨蜂巣および蝶形骨洞に多量の乾酪様貯留物を認め,蝶形骨洞中隔欠損および右後部篩骨蜂巣天蓋の骨欠損を認めた。病理組織検査にて好酸球性ムチン,真菌を認め,副鼻腔粘膜への真菌浸潤を認めなかったことから確定診断に至った。本例では,CTにて特徴的な骨リモデリング所見を認め,AFRSに特異性がある所見であると考えた。治療においては,蝶形骨洞単洞化および懸垂頭位によるステロイド液点鼻療法が非常に有効であった。術後,病変の再発所見は認めず現在も経過観察中である。

  • 西田 壮志, 實川 純人, 角木 拓也, 山本 圭佑, 高野 賢一
    2022 年 2 巻 4 号 p. 197-202
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    今回,両側同時性顔面神経麻痺を発症し,臨床経過からサルコイドーシスを疑う症例を経験したため文献的考察を加えて報告する。症例は50歳,男性。前日からの右側の顔の動かしにくさを主訴に前医を受診し,重度のベル麻痺と診断され,前医にてステロイド漸減療法が開始された。発症7日目に左側の顔面神経麻痺も出現し,両側同時性顔面神経麻痺となった事から全身性疾患の疑いもあり,発症9日目に当科に転院となった。複数科での精査後,確定診断には至らなかったが,サルコイドーシスによる顔面神経麻痺を最も強く疑い,サルコイドーシスに準じたステロイド治療に移行した。治療開始5ヵ月後,両側の麻痺は改善傾向であり,今後もステロイド治療継続の方針である。顔面神経麻痺は日常疾患でよく遭遇する疾患であるが,両側性顔面神経麻痺は顔面神経麻痺全体の5%程度と稀である。両側性顔面神経麻痺は全身性疾患の一症状として認められることがあり,発症時期により同時性,交代性,再発性に分類され,特に本症例のような同時性の麻痺では全身性疾患の頻度が高いとされている。両側性顔面神経麻痺の鑑別疾患の1つにサルコイドーシスがある。サルコイドーシスの内,約5%には神経病変を認め,神経サルコイドーシスといわれており顔面神経麻痺をきたすことが多い。顔面神経麻痺をきたす疾患としてサルコイドーシスは考慮すべき疾患であり,念頭に置いて診察し,迅速な精査を進める必要がある。

  • 増田 佐和子, 臼井 智子
    2022 年 2 巻 4 号 p. 203-208
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    マダニはヒトに寄生して吸血し,時にさまざまな感染症を媒介する。我々は2例の異なった病態を呈したマダニ咬症を経験した。症例1は69歳女性で,全身倦怠感と頭痛,発熱と回転性めまい,全身の発疹が出現して発症6日目に受診した。前庭神経炎疑いで入院後,血小板減少,CRP,AST,ALT,LDHの上昇,低ナトリウム血症を認めた。内科に対診したところ発症1週間前に県南部で登山したことが判明し,日本紅斑熱と考えてミノサイクリン投与を開始した。その後腰部にマダニの刺し口が発見され,刺し口痂皮のPCR検査により日本紅斑熱と確定診断された。全身症状,検査所見とも順調に改善し,発症14日目に退院した。症例2は78歳女性で,市内の竹林に入った翌日に右耳痛と耳出血があり受診した。右外耳道入口部に白色球状の腫瘤を認め,マダニを疑って皮膚科に紹介したところタカサゴキララマダニによる吸血と診断され,完全除去されて治癒した。マダニ咬症は耳鼻咽喉科医にとってはまれであるが,さまざまな病態を呈する。その特徴と対応について知っておくべきと考えられた。

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