2023 年 69 巻 2 号 p. 97-103
われわれは拍動性耳鳴を呈する内頸動脈鼓室内脈走行異常の 1 例に対して手術加療を行った。症例は 19 歳の女性で数年前から拍動性耳鳴が増悪し、難聴も出現したため紹介となった。鼓膜前下象限に淡紅色の拍動性腫瘤を認め、側頭骨 CT で下鼓室小管の拡大と動脈の走行異常および異常血管が頸動脈水平部に移行する所見を認めた。内頸動脈鼓室内走行異常による拍動性耳鳴と診断した。手術の予想される効果と内頸動脈損傷のリスクについて説明を行い、手術を行った。薄切軟骨で意図的に浅在化した鼓膜を形成し、長いコルメラによる Ⅲ c 型伝音再建を行い拍動性耳鳴の消失と伝音難聴の改善を認めた。術中出血は微量であった。本疾患は手術操作による大量出血の可能性があるが、診断確定のもと注意深く手術操作を行うことは必ずしも危険ではない。鼓膜の意図的浅在化と長いコルメラによる伝音再建を行うことは拍動性耳鳴の改善と伝音難聴の改善にも有効であると考えられた。