日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
嚥下障害に対する耳鼻咽喉科医の役割
―手術的治療の効果―
土師 知行
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2014 年 117 巻 7 号 p. 893-898

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抄録
 嚥下障害に対する手術的治療は耳鼻咽喉科医のみが行い得るもので, 一般の耳鼻咽喉科医であっても手術的治療の方法, 適応, 効果, 問題点について精通し, 的確にアドバイスできることが求められる.
 嚥下障害に対する手術法は発声・呼吸という喉頭機能を残す嚥下機能改善手術と, 喉頭機能を犠牲にし, 気道と食道とを遮断, 分離する誤嚥防止術に分けることができる. 前者としては輪状咽頭筋切断術, 喉頭挙上術がよく行われる. また嚥下障害の種類によっては補助的に声帯内方移動術や咽頭縫縮術,咽頭弁形成術も行うことがある. 後者には喉頭閉鎖術, 喉頭気管分離術がある. これらは喉頭機能を犠牲にするが, 喉頭の形態を保存し, 将来嚥下障害が改善した場合喉頭機能再建の可能性を残すものである. さらに気道と食道とを完全に分離する喉頭摘出術も行われるが, 喉頭機能の再建は不可能となる.
 嚥下機能改善手術は基本的に中等度以下の嚥下障害が対象となる. 誤嚥が消失するわけではないので, 全身状態や手術に対する理解力や経口摂取への意欲などが手術を行う上で重要となる. 術後は胃食道逆流などの副作用に注意する.
 誤嚥防止手術はしばしば嚥下性肺炎を起こし, 生命予後に影響するような高度の嚥下障害例が対象となる. この手術を行うことにより嚥下性肺炎が防止でき, 喀痰も減少し, カニューレも不要となる例も多く, 患者本人に限らず, 介護者にとっても負担の軽減につながる. しかし, 必ずしも経口摂取ができるとは限らないことは事前によく説明し了解を得ておくことが大切であり, 重要なコミュニケーションの手段を奪うことにもなるので, 安易に手術を行うのは好ましくない.
 嚥下障害に対する手術では, 各々の術式の特徴をよく理解した上で, 患者の嚥下障害の程度だけでなく, 全身状態や意識状態, 家族や社会的な支援が得られる環境かどうかなども考慮して適応を決めることが大切である.
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© 2014 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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