日本耳鼻咽喉科学会会報
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117 巻, 7 号
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総説
  • ―消化器内視鏡検査―
    矢野 友規, 金子 和弘, 大津 敦
    2014 年 117 巻 7 号 p. 881-886
    発行日: 2014/07/20
    公開日: 2014/08/08
    ジャーナル フリー
     消化器内視鏡検査は, 消化管癌を早期に発見するために開発され進歩してきた. 現在も内視鏡機器開発は目覚ましく, 日常臨床における検査も日々進歩している. 日常臨床に組み込まれた新しい機器として経鼻内視鏡, カプセル内視鏡, バルーン内視鏡がある. 経鼻内視鏡は検査の侵襲を改善しスクリーニングとして広く取り入れられている. カプセル内視鏡やバルーン内視鏡により, 今まで内視鏡が到達しなかった小腸の観察も可能になり, 原因不明の消化管出血に対する診療は変わった. また, 内視鏡画像としては, デジタル法や光デジタル法を中心とした画像強調観察や拡大内視鏡の進歩が目覚ましい. 光デジタル法の一つである NBI (Narrow Band Imaging) では, ヘモグロビン吸収波長である415~540nm の短波長狭帯域を用いて, 粘膜表面の血管情報を強調して粘膜表面の血管の顕在化に成功した. 拡大内視鏡観察は, 拡大機能を持つ内視鏡で, 生体内で粘膜模様等の精査が可能になり, 大腸では病変の腺管開口部 (pit) のパターンによる分類が広く普及している. NBI と拡大観察の組み合わせでは, 病変内部の血管の形状変化などによる診断が可能になってきており, 食道癌の深達度診断や胃の小陥凹病変での鑑別診断における有用性が報告されている. NBI 導入による最もインパクトのある新しい知見は中下咽頭領域における表在癌の発見である. 表在癌は, NBI で明瞭な茶褐色腸粘膜域 (brownish area) として視認可能である. これにより, 現在は経口内視鏡を用いた通常内視鏡検査でも, 食道癌患者を中心としたハイリスク症例では挿入時に中下咽頭領域をくまなく観察している. 中下咽頭表在癌には, 消化管早期癌に対する内視鏡切除技術を応用した内視鏡治療が行われている.
  • ―TORS を中心として―
    藤原 和典, 福原 隆宏, 北野 博也
    2014 年 117 巻 7 号 p. 887-892
    発行日: 2014/07/20
    公開日: 2014/08/08
    ジャーナル フリー
     早期の咽喉頭癌に対して, 化学放射線治療に代わる治療として, ロボット支援下経口的咽喉頭癌切除術 (TORS: Transoral Robotic Surgery) が海外において普及しており, 良好な成績や機能温存が報告されている. しかし, 残念ながら, 本手術は本邦では薬事未承認である. 現在, 早期の薬事承認を目指し, 鳥取大学, 東京医科大学および京都大学による多施設共同臨床研究の準備を進めている.
  • ―手術的治療の効果―
    土師 知行
    2014 年 117 巻 7 号 p. 893-898
    発行日: 2014/07/20
    公開日: 2014/08/08
    ジャーナル フリー
     嚥下障害に対する手術的治療は耳鼻咽喉科医のみが行い得るもので, 一般の耳鼻咽喉科医であっても手術的治療の方法, 適応, 効果, 問題点について精通し, 的確にアドバイスできることが求められる.
     嚥下障害に対する手術法は発声・呼吸という喉頭機能を残す嚥下機能改善手術と, 喉頭機能を犠牲にし, 気道と食道とを遮断, 分離する誤嚥防止術に分けることができる. 前者としては輪状咽頭筋切断術, 喉頭挙上術がよく行われる. また嚥下障害の種類によっては補助的に声帯内方移動術や咽頭縫縮術,咽頭弁形成術も行うことがある. 後者には喉頭閉鎖術, 喉頭気管分離術がある. これらは喉頭機能を犠牲にするが, 喉頭の形態を保存し, 将来嚥下障害が改善した場合喉頭機能再建の可能性を残すものである. さらに気道と食道とを完全に分離する喉頭摘出術も行われるが, 喉頭機能の再建は不可能となる.
     嚥下機能改善手術は基本的に中等度以下の嚥下障害が対象となる. 誤嚥が消失するわけではないので, 全身状態や手術に対する理解力や経口摂取への意欲などが手術を行う上で重要となる. 術後は胃食道逆流などの副作用に注意する.
     誤嚥防止手術はしばしば嚥下性肺炎を起こし, 生命予後に影響するような高度の嚥下障害例が対象となる. この手術を行うことにより嚥下性肺炎が防止でき, 喀痰も減少し, カニューレも不要となる例も多く, 患者本人に限らず, 介護者にとっても負担の軽減につながる. しかし, 必ずしも経口摂取ができるとは限らないことは事前によく説明し了解を得ておくことが大切であり, 重要なコミュニケーションの手段を奪うことにもなるので, 安易に手術を行うのは好ましくない.
     嚥下障害に対する手術では, 各々の術式の特徴をよく理解した上で, 患者の嚥下障害の程度だけでなく, 全身状態や意識状態, 家族や社会的な支援が得られる環境かどうかなども考慮して適応を決めることが大切である.
原著
  • 西村 剛志, 小松 正規, 田口 享秀, 高橋 優宏, 佐野 大佑, 佐久間 直子, 荒井 康裕, 高橋 秀聡, 田中 恭子, 澤熊 香衣, ...
    2014 年 117 巻 7 号 p. 899-906
    発行日: 2014/07/20
    公開日: 2014/08/08
    ジャーナル フリー
     背景: 化学療法併用放射線治療 (CCRT) が頭頸部扁平上皮癌 (HNSCC) 進行例に対し施行される機会が増えている. 頸部リンパ節の制御は予後に関与するため CCRT 後の治療効果判定は救済手術の判断に重要な役割を担う.
     患者と方法: 頸部リンパ節転移を有する HNSCC 症例に対し CCRT 施行後, 4~8週間後に画像検査および細胞診を施行し CR 群と no-CR 群に2分し治療終了6カ月後の臨床経過と比較することで検査精度を評価した.
     結果: 感度, 特異度, 陽性的中率, 陰性的中率, 精度はそれぞれ CT・MRI で66.7%, 73.5%, 26.7%, 93.8%, 72.5%, 頸部超音波検査 (US) で91.7%, 69.9%, 30.6%, 98.3%, 72.6%, FDG-PET/PET-CT で50.0%, 96.4%, 66.7%, 93.0%, 90.5%, 細胞診で68.4%, 96.1%, 81.3%, 92.5%, 90.6%であった.
     考察: CCRT 後の頸部リンパ節転移への治療効果判定には US が陽性スクリーニングとして, FDG-PET/PET-CT が陰性スクリーニングとして有用であった. これらの検査結果が臨床経過と乖離した場合は高精度検査である細胞診を併用し診断能力の向上が可能と考えられた.
  • 鈴木 基之, 吉野 邦俊, 藤井 隆, 喜井 正士, 須川 敏光, 北村 公二
    2014 年 117 巻 7 号 p. 907-913
    発行日: 2014/07/20
    公開日: 2014/08/08
    ジャーナル フリー
     当科では1998年以降舌癌に対し手術と高リスク群に対する術後照射を一貫して行ってきた. 今回, 今後の治療に還元することを目的として2000~2010年に一次根治手術を行った舌癌263例を対象として後向きに治療成績の検討を行った. 術前治療が行われた例, 頭頸部癌の既往および同時重複例, 頸部への照射歴がある症例は除外した. 死亡例を除く観察期間の中央値は6.0年であった. 対象の Stage の内訳は Stage I: 76, Stage II: 98, Stage III: 57, Stage IV: 32であった. 病理学的高リスク群は56例 (21%) でそのうち44例 (79%) に術後照射が行われた. 全体の5年粗生存率, 5年死因特異的生存率はそれぞれ79.1%, 85.0%で, Stage 別には Stage I: 82.7%, 91.2%, Stage II: 86.7%, 89.0%, Stage III: 71.5%, 78.6%, Stage IV: 61.5%, 69.1%であった. 病理学的低リスク群は術後照射を行わずとも有意に予後良好であった. 一方, 病理学的高リスク群に対する術後照射は局所領域制御率の向上には寄与していたが粗生存率の向上には寄与していなかった.
  • 坂東 伸幸, 後藤 孝, 原渕 保明
    2014 年 117 巻 7 号 p. 914-921
    発行日: 2014/07/20
    公開日: 2014/08/08
    ジャーナル フリー
     (背景) 頸動脈超音波検査が頸動脈の評価や動脈硬化のスクリーニングのため, 本邦で広く行われている. その際, 甲状腺病変やリンパ節腫脹がみられることがある. しかし, それらの病変に対し, 十分な注意が払われていない可能性がある.
     (対象・方法) 2008年から2012年まで当院で同検査を行った30,351名を対象とした. 頸動脈の評価に加えて甲状腺と頸部リンパ節腫脹を観察した. 要精査判定基準は甲状腺内に ①石灰化を伴う腫瘤, ②2cm以上の充実性腫瘤, ③悪性所見, ④びまん性腫大, さらに⑤頸部リンパ節腫脹とした.
     (結果) 30,351名中650例 (2.2%) が要精査となり, その内当院で精査した症例は394例であった. 悪性腫瘍が73例 (全体の0.24%) 発見され, その内訳は甲状腺癌67例, 悪性リンパ腫2例, 喉頭癌1例, 中咽頭癌1例, 下咽頭癌1例などであった. 要精査所見において650例中甲状腺内に石灰化腫瘤が370例 (56.8%), 2cm以上が197例 (30.2%), 悪性所見が120例 (18.4%), びまん性腫大が38例 (5.8%), 頸部リンパ節腫脹が38例 (5.8%) にみられた. 同検査で発見された甲状腺癌56例の要精査所見は良性病変132例と比較し, 有意に悪性所見とリンパ節腫脹の割合が高かった. 甲状腺癌手術例において同検査で発見された56例は症状を自覚し, 診断した21例と比較し, 有意に腫瘍径が小さく, pT, pN 分類で早期であった.
     (結論) 頸動脈超音波検査で甲状腺と頸部リンパ節腫脹をスクリーニングすることは甲状腺癌の早期発見に有用と考えられた.
  • ―側頭骨外側切除の併用―
    前田 明輝, 上田 祥久, 小野 剛治, 進 武一郎, 千年 俊一, 梅野 博仁, 中島 格
    2014 年 117 巻 7 号 p. 922-927
    発行日: 2014/07/20
    公開日: 2014/08/08
    ジャーナル フリー
     2008~2013年に側頭骨外側切除 (Lateral Temporal Bone Resection: 以下 LTBR) による頸静脈孔周囲へのアプローチで切除した頸静脈孔周囲進展頭頸部癌5症例 (耳下腺癌3例, 耳介基底細胞癌, 下歯肉癌). 性別は男性3例, 女性2例で, 年齢は25~76歳, 観察期間は13~22カ月. 検討項目は術式の紹介, 治療成績とした. 転帰は生存が4例で, 原発巣死を1例に認めた. 全例に術後顔面神経麻痺, 患側聴力低下を認めている. 術後顔面神経麻痺や患側の聴力損失を伴うが, 頸静脈孔周囲の手術操作には LTBR による術野展開・切除安全域の設定は有用と考える.
  • 木村 寛, 結城 浩良
    2014 年 117 巻 7 号 p. 928-931
    発行日: 2014/07/20
    公開日: 2014/08/08
    ジャーナル フリー
     切迫早産治療薬の塩酸リトドリン (ルテオニン®) による両側の耳下腺と顎下腺の腫脹を来した26歳女性症例を報告する. 症例は, 妊娠26週に生じた右傍卵巣囊胞茎捻転に対して右卵管切除術を受けた. 術後, 子宮収縮を認め, 切迫早産の治療のために本薬剤が点滴された. しかし, 両側唾液腺腫脹が生じ, 血清アミラーゼも上昇した. 本薬剤を投与中止し, 腫脹と血清アミラーゼは改善した. 本薬剤は β2 刺激薬で, この β 作用により唾液腺が腫脹, 血清アミラーゼが上昇したと推察した. 本症例は, 耳鼻咽喉科からの本薬剤による唾液腺腫脹の最初の報告例で, 本薬剤が唾液腺腫脹を来すことを耳鼻咽喉科医も記憶しておく必要があると考えた.
  • 藤尾 久美, 井之口 豪, 福田 有里子, 長谷川 信吾, 大月 直樹, 丹生 健一
    2014 年 117 巻 7 号 p. 932-935
    発行日: 2014/07/20
    公開日: 2014/08/08
    ジャーナル フリー
     パーキンソン病 (PD) 発症早期の約75%に嗅覚障害がみられることが知られている. 運動症状に先行することが多く, 高齢者における嗅覚障害の評価は PD の早期診断に有用とされる. 今回われわれは, 嗅覚障害を初発症状とし PD の診断に至った1例を経験したので報告する. 症例は71歳男性. 5年来の嗅覚障害を主訴に当科を受診した. 基準嗅力検査で乖離所見を認め, オープンエッセンス (OE) では3/12点であった. 経過観察中に仮面様顔貌と運動症状が出現し, 当院神経内科で PD と診断された. 明らかな原因がない高齢者の基準嗅力検査での乖離所見と OE における嗅覚障害を認めた場合は, PD の初期症状を疑うことを念頭に置いて対応することが重要であると考えられた.
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