日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
小児滲出性中耳炎の治療とそのエビデンス
―目的を意識した小児滲出性中耳炎の診断―
伊藤 真人
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2020 年 123 巻 2 号 p. 123-126

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抄録

 小児滲出性中耳炎の診断目的は, ① 原因となる急性中耳炎との関連の中で患児のおかれた病状を推定するとともに, ② 難聴の程度とその及ぼす影響を判定すること, さらに ③ 周辺器官の感染・炎症の状態を評価して, 治療を計画することである. 小児滲出性中耳炎の約50%は急性中耳炎を契機に生じるか, 以前からあったものが発見される. 現在では小児滲出性中耳炎の病態は, 急性中耳炎と同様に感染であると考えられており, 発症後3週間以上遷延するものが亜急性, 3カ月以上遷延するものが慢性滲出性中耳炎である.「小児急性中耳炎診療ガイドライン2015年版」がカバーする範囲は, 亜急性期以後の滲出性中耳炎であり, 急性症状発現から3週間以内は急性中耳炎としての対応が求められる.

 小児滲出性中耳炎と急性中耳炎は, 鼓膜所見だけでは鑑別が難しいこともあり, 耳痛や発熱などの急性症状出現後48時間以内に受診した場合は急性中耳炎と診断される. 家庭医が初療を担当することが多い諸外国においては, 急性中耳炎と滲出性中耳炎をどのように鑑別診断するかが, 昨今大きなテーマとなっており, 新しい診断機器の開発が進められている. 小児急性中耳炎と小児滲出性中耳炎とは相互に移行する関係にあり, その境界を厳密に分けることが難しいばかりではなく, 鼓膜チューブ留置術などの治療選択においても, どちらか片方の疾患だけを念頭において治療を決定できるものではない. したがって,「慢性中耳炎以外の小児中耳炎」として, 急性中耳炎と滲出性中耳炎という, 移行する疾患群の全体像を俯瞰した対応が求められる.

 小児中耳炎の診療に際して, 病院・診療所を問わずわれわれすべての耳鼻咽喉科専門医に求められることは, 正確な鼓膜所見の評価とおおよその聴力域値を推定することであり, 患児の中耳炎が上記どちらの病態と考えられるのかを明確に保護者に伝えるとともに, 必要な症例を選別して精密聴力検査や手術管理が可能な施設に紹介することである.

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