日本耳鼻咽喉科学会会報
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Body Tracking Testを使った動的体平衡機能の加齢による変化について
吉田 友英山本 昌彦折原 廣巳三宅 孝功長舩 宏隆小田 恂
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1999 年 102 巻 1 号 p. 27-34

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抄録

老人では, 姿勢の維持や歩行などに変化が起こり, 転落, 転倒しやすくなる. それは, 体のバランスを保持するために関係する視覚系, 前庭系, 深部知覚系の入力の変化により生じるものと考えられる. 私達は, Body Tracking Test (以下BTTと略す) を用いて, これまでに動的体平衡機能の研究を進めてきた. 今回, このBTTを用いた動的体平衡機能の加齢による影響について解析, 検討を行ったので報告する.
対象は, 健康人272人である. BTTは, コンピュータのディスプレー上に表示された移動する視標を重心の移動によって視標が動く方向と同じ方向に追随させる方法で行った. 視標の移動刺激は, 左右, 前後方向定速刺激を用い, 移動速度は, 0.125Hzとした. BTTの追随機能を評価するために, BTTの視標と重心移動の位相の一致率に基づいた5段階追随評価法を用いて評価を行った.
各年齢ごとに動的体平衡機能の加齢変化を見たが, 左右, 前後方向定速刺激BTTともに40歳代から追随機能の低下がみられた. これは, 入力系の生理学的な加齢変化の起こる年齢と矛盾していない結果であった.
20から30歳代では, 左右方向定速刺激BTTではAランクの占める割合の増加がみられたが, 前後方向定速刺激BTTではあまり差がみられなかった. 左右, 前後方向定速刺激BTTとも40から50歳代になるとA, Bランクの占める割合が少なくなった. Eランクがみられ始めたのは, 左右方向定速刺激BTTでは40歳代, 前後方向定速刺激BTTでは50歳代であった. さらに60から80歳代と高齢になるにしたがいC, D, Eランクの占める割合が多くなるが, 前後の方が左右方向定速刺激BTTに比べてその割合は小さい傾向がみられた. これまでも静的体平衡機能検査にて左右より前後動揺に有意な増加を示す報告がみられる. 今回の結果をあわせ, 高齢者では外的刺激に対してはむしろ前後方向のすばやい立ち直りでバランスを保っているのではないかと考えられた.

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