日本耳鼻咽喉科学会会報
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嗅覚障害患者に対するステロイド懸濁液局所注入療法
深澤 啓二郎藤井 恵美友藤 誠一小笠原 寛瀬尾 達阪上 雅史
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1999 年 102 巻 10 号 p. 1175-1183

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抄録
嗅覚障害患者に対し, ステロイド懸濁液局所注入療法を行った. 鼻中隔粘膜 (粘膜固有層) へ注入するもので各鼻腔内へ1回4mgのデキサメタゾンを2週間毎に原則として8回注入した. 平均総注入量は58.4mgであった. メコバラミン, ATP製剤の内服投与も併用した. 対象となった嗅覚障害の原因は, 手術対象例でない慢性副鼻腔炎32例, 感冒罹患後24例, 鼻アレルギー14例, 頭部外傷後9例, 原因不明23例であった. VASによる自覚症状の有効率は63.7% (102例中65例) であった. 治療成績をT&Tオルファクトメータで検討したところ, 全般治療成績で平均検知域値4.75±1.44から3.01±2.13へ, 平均認知域値5.30±0.88が4.19±1.60へと有意に改善した. 慢性副鼻腔炎, 感冒罹患後, 鼻アレルギー, 原因不明例もそれぞれ有意な改善を示したが, 頭部外傷例は有意な改善を示さなかった. 平均認知域値で検討した有効率は全般で43.1% (102例中44例) であった. 原因別では慢性副鼻腔炎例で46.9% (15例), 感冒罹患後例で50.0% (12例), アレルギー性鼻炎例50.0% (7例), 頭部外傷後例22.2% (2例), 原因不明例47.8% (11例) であった. 嗅覚障害の重症度と治療成績の関係では, 軽度, 中等症例が高度, 脱失例より良好であった. 静脈性嗅覚検査無反応例は反応の見られる症例に比較して治療成績は不良であった. 嗅粘膜所見正常で静脈性嗅覚検査無反応例でも27.6%の有効率を認め, 嗅神経周囲の浮腫が障害の原因であることが考えられた. 嗅覚障害発症から治療開始までの期間で1年以内に治療を開始できた例の治療成績が良かった.
従来行われているステロイド点鼻療法と比べても遜色のない治療成績であり, 耳鼻咽喉科医が行いうる新しい治療法として有用であった.
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