抄録
目的
いわゆる「先天性特発性眼振」の病態生理については未だ剖検例に乏しく,諸家の報告でも前庭第一次反射弓より中枢の何らかの障害,とくに脳幹の障害であろうと推察されているに過ぎない.
しかしながら,この先天性異常眼球運動の病態生理を分析することは,全ゆる眼球運動の発現メカニズムの解明につながるものとも言われ,また眼振のために視力障害を来たしている患者に治療法の確立によつて光明を与えることにもなる.
われわれは過去2年間にわたり,この病態生理について研究をつづけて来たが,此度,その病巣局在診断の一端を明かにし得る若干の知見を得たのでここに報告した.
症例ならびに検査方法
精細な神経学的検索によつて診断を下したいわゆる「先天性特発性眼振」106症例について,その性状ならびに検査成績から病態生理について検討,考察を行った.106症例の内訳けは,衝動型34例,振子•衝動型27例,振子様型21例,潜伏性20例,交代性3例,輻輳性1例であった.
結論
1)先天性特発性眼振は病態生理学の上から,振子様型グループと衝動型グループとに2大別され得る.
2)潜伏性眼振と交代性眼振は衝動型眼振と類似した性状を多く有し,衝動型グループの特殊型に位置するものである.
3)先天性特発性眠振は「眼筋にみられる不随意運動」であるとの立場からの分析が必要である.
4)従つて,先天性特発性眼振は従来の脳幹障害説に加うるに,広く小脳錐体外路系を中心に,中脳,間脳錐体外路系の障害によつて発現してくるものであると考察した.