情報通信政策研究
Online ISSN : 2432-9177
Print ISSN : 2433-6254
ISSN-L : 2432-9177
立案担当者解説
電波法の一部を改正する法律
堀口 裕記山内 匠中山 康一郎
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2019 年 3 巻 1 号 p. 129-144

詳細
要旨

第198回通常国会において成立した「電波法の一部を改正する法律」は、Society 5.0の基盤となる電波の有効利用を促進するため、①電波利用料の料額の改定等を行うとともに、②特定基地局の開設計画の認定に係る制度の整備を行うほか、③実験等無線局の開設及び運用に係る特例の整備等の措置を講ずるものである。

①については、電波利用料の料額に係る周波数帯の区分等の見直しとして、

・ 無線技術の進展に対応し、電波利用料の料額の区分のうち周波数帯の区分を見直すとともに、広域専用電波として指定(指定により無線局単位から使用周波数帯幅単位の課金となる)が可能な周波数帯を拡大する。

・ 今後3年間(令和元年度~3年度)の電波利用共益費用及び無線局の開設状況の見込みを勘案した電波利用料の料額等の改定を行う。

また、電波利用料が減免されている国の機関や地方公共団体等が開設する無線局(公共用無線局)のうち、電波を非効率に使用しているものには、減免を認めないこととするほか、電波利用料の使途として、電離圏における電波の伝わり方の観測及び分析等並びに大規模災害に備えるための放送用設備の整備に係る補助金の交付を追加する。

②については、申請者が電波の経済的価値を踏まえて開設計画に記載した特定基地局開設料(認定を受けた者が納付すべき金銭)の額を考慮して開設計画の認定の審査をできるようにし、当該認定を受けた者による特定基地局開設料の納付に関する規定及び使途に関する規定を新設する。また、特定基地局の通信の相手方である無線局の移動範囲における無線通信を確保するために既設基地局を高度化してその運用を図ることが適当な場合について、開設指針及び開設計画の記載事項に当該既設基地局の配置等に関する事項を追加する。

③については、実験等に用いる無線設備(携帯電話端末及びWi-Fi機器等に限る。)が適合表示無線設備でない場合であっても、我が国の技術基準に相当する技術基準に適合しているときは、一定の条件の下に、当該無線設備を使用する実験等無線局の開設及び運用ができることとする。

1. はじめに

令和元年5月17日に公布された電波法の一部を改正する法律(令和元年法律第6号。以下「本法律」という。)は、「Society 5.0」1の実現に向けて、5G(第5世代移動通信システム)の迅速かつ円滑な普及・高度化を図り、我が国のあらゆる社会経済活動の基盤となる電波の有効利用を促進するため、電波利用料の料額の改定等を行うとともに、特定基地局の開設計画の認定に係る制度の整備を行うほか、実験等無線局の開設及び運用に係る特例の整備等の措置を講ずるものである。

本稿では、本法律の制定に至る検討の経緯及び論点を紹介した上で、本法律による電波法(昭和25年法律第131号。以下「法」という。)の各改正事項の概要について解説することとしたい。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であることを予めお断りしておきたい。

2. 経緯及び論点

IoT2、AI(人工知能)、ロボット、ビッグデータ等の先端技術をあらゆる産業や生活分野に取り入れ、経済成長と課題解決を図る新たな社会であるSociety 5.0を、我が国は世界に先駆けて実現することを目指しており、電波は、このSociety 5.0を支える不可欠のインフラであることから、今後、電波利用のニーズは飛躍的に拡大すると見込まれている。

上記の観点から、「規制改革推進に関する第2次答申」(平成29年11月規制改革推進会議決定)及び「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月閣議決定)においては、電波制度改革として公共部門の割当て・利用状況の「見える化」や帯域確保に向けた対応、割当てに関わる制度の見直し、経済的価値をより一層反映した電波利用料体系の見直しについて取りまとめられた。

こうした状況を踏まえ、総務省では平成29年11月から「電波有効利用成長戦略懇談会」3(座長:多賀谷一照・千葉大学名誉教授)を開催し、公共用周波数の有効利用推進方策に加えて、今後の人口減少や高齢化等の社会構造の変化に対応するための電波利用の将来像やそれらを実現するための方策を明らかにするとともに、長期的な展望も視野に入れた電波有効利用方策について検討を行った。

同懇談会においては、事業者等からのヒアリングや報告書(案)に対する意見募集(平成30年7月10日から8月8日まで)を実施し、8月31日に報告書が取りまとめられた。本報告書においては、ワイヤレスがインフラとなる2030年代に目指すべき電波利用社会の5つの基本コンセプトを設定し、2030年代に実現すべき7つの次世代ワイヤレスシステムと6つの利用シーンについて提言した。その上で、短期的な帯域確保の目標及び長期的な帯域の必要幅の見通しが示され、2020年代に向けた電波有効利用方策として「周波数割当制度の見直し」、「公共用周波数の有効利用方策」、「電波利用料制度の見直し」、「技術の進展を踏まえた電波有効利用方策」の4項目について提言がなされた。

本報告書の提言や「規制改革実施計画」(平成30年6月閣議決定)に基づき、政府は、電波法の一部を改正する法律案を平成31年2月12日に閣議決定し、第198回通常国会に提出した。その後、国会審議を経て令和元年5月10日に本法律が成立し、5月17日に公布された。

3. 電波利用料の見直し

3. 1. 電波利用料の料額の見直し

電波利用料とは、電波の監視等の電波の適正な利用の確保に関し総務大臣が無線局全体の受益を直接の目的として行う事務(電波利用共益事務4)の処理に要する費用(電波利用共益費用)を、その事務の受益者である無線局の免許人等に負担させるものとして、平成4年の法改正により導入されたものである。

電波利用料の料額は、3年間を一期間として、当該期間に必要と見込まれる電波利用共益費用を、当該期間に開設していると見込まれる無線局の免許人等で負担することとして、無線局の区分ごとに定めるものである。

電波利用料の料額は、具体的には次のように算定している。

  • ①1年当たりの電波利用共益費用を、「a群に係る費用」と「b群に係る費用」に配分する。
  • a群に係る費用:電波の利用価値の向上につながる事務(電波資源拡大のための研究開発、携帯電話等エリア整備事業 等)の処理に要する費用
  • b群に係る費用:電波の適正な利用を確保するために必要な恒常的な事務(電波監視、総合無線局管理ファイルの作成・管理 等)の処理に要する費用

  • ②「a群に係る費用」については、次の3段階により、使用する電波の利用価値を勘案して各無線局に配分することにより、無線局ごとの料額を算定する。
  • 第1段階:「周波数帯の区分(以下「帯域区分」という。)」ごとに配分する。具体的には、「3GHz以下の帯域区分」(移動・放送系の無線システムが中心)と「3GHz超6GHz以下の帯域区分」(固定・衛星系の無線システムが中心)とに、各帯域区分で無線局が使用する「延べ使用周波数帯幅5」に基づき配分する。
  • 第2段階:「帯域区分」ごとに配分された費用を当該帯域区分の「無線システム」ごとに配分する。当該配分は、無線システムごとの「割当周波数帯幅」に基づき行い、一部の無線システムについては、特性(電波の利用形態や公共性等)を勘案した軽減係数(特性係数)を適用する。
  • 第3段階:「無線システム」ごとに配分された費用を個別無線局に配分するが、その際、必要に応じ、各無線局の設置場所や出力等を勘案する。なお、広域専用電波に係る電波利用料については、「無線局」ごとに費用を配分して料額を算定するのではなく、周波数帯幅に応じた1MHz当たりの料額を算定する。

  • ③「b群に係る費用」については、以下のとおり配分する。
  • ・電波監視等に係る費用:
  • 「無線局数」に基づき「無線局」ごとに配分する。
  • ・無線局データベースの作成・管理等に係る費用:

    無線局データベースに記録する「データ量」に基づき「無線システム」ごとに配分し、無線システムごとに配分された費用を当該無線システムごとの「無線局数」に基づき「無線局」ごとに配分する。

  • ④前期に比べて料額が大幅に増加する無線局については、増加率を一定の範囲に抑えるよう調整を行う。

電波利用料の料額(広域専用電波に係るものを除く。)は、無線局の区分に応じて法第103条の2第1項及び別表第6等に規定され、広域専用電波に係る料額は、同条第2項及び別表第7に規定されている。

図1. 平成29年法改正時電波利用料の算定フロー

(出典)電波利用料の見直しに係る料額算定の具体化方針(平成29年1月23日)

電波利用料制度については、電波法の規定により少なくとも3年ごとに見直しを行うこととされている。

一方、規制改革実施計画等において、「電波の利用に関する負担の適正化」や、周波数の有効利用に資する「電波利用料の使途の見直し」に向けた法案を平成30年度中に提出することとされた。このため、総務省においては、電波有効利用成長戦略懇談会を開催し、意見募集や免許人の方々からヒアリング等を実施しつつ、報告書をとりまとめた。

同報告書等を踏まえて、総務省では、電波利用料について見直しを行うこととした。

具体的には、電波利用料負担の適正化として、電波利用料の料額に係る帯域区分の見直し(3.1.1.記載)及び広域専用電波制度の見直し(3.1.2.記載)を行い、また、5Gの来年以降の本格的サービス提供の開始等を踏まえ電波利用料の使途を見直し(3.3.記載)、電波利用共益費用の総額が年平均750億円6と拡大したことから、電波利用料の料額を改定した。以下、改正のポイントについて説明したい。

3. 1. 1. 電波利用料の料額に係る帯域区分の見直し

免許人等は電波利用料として、法第103条の2第1項において、法別表第6の上欄に掲げる無線局の区分に従い同表の下欄に掲げる金額を納めることとされている。同表は、無線通信の態様(移動通信か固定通信か等)に着目して分類しているものであり、1の項及び2の項は移動通信を行うもの、3の項、4の項及び5の項は宇宙通信を行うもの、6の項は放送を行うもの、7の項及び8の項は特殊なもの、9の項はその他のものである。

各項中においては、以下のような要素によって料額が細分化されている。

  • ① 周波数帯(3GHz以下、3GHz超6GHz以下、6GHz超)
  • ② 使用する周波数の幅
  • ③ 空中線電力
  • ④ 設置場所(設置されている地域)
  • ⑤ その他無線局の性質、局種や用途

先述のとおり現行の電波利用料の算定方法においては、「a群に係る費用」の配分の第1段階において、帯域区分ごとにその費用を配分している。法別表第6中で「①周波数帯」に応じて料額が細分化されているのは、この帯域区分に応じた費用配分に連動している。本法律では、最も無線局数及び割当て周波数幅が拡大している携帯電話システムに係る昨今の電波利用の実情等を踏まえ、帯域区分の見直しを行った。

具体的には、平成17年の法改正時と比べると、近年では、携帯電話システムに係る技術革新により、ビル陰や建物内等の従前は回りこみやすい電波でなければ届かなかったエリアについても、より高い周波数帯の直進性が強い電波で支障なくカバーすることができるようになった。

また、平成17年当時は、音声通話に加えてテキストメッセージの送受信やテキストサイトの閲覧が主な用途であったため、携帯電話システムには、波長が比較的長く伝送容量は多くないが回りこみのよい700MHz~1.0GHzの帯域を中心に割り当てられていたところ、近年、より波長が短い高帯域の電波を利用する無線通信技術が急速に発達するとともに、高精細な動画や画像の送受信といった大容量なデータ通信の需要も急速に拡大している。

これらを踏まえ、波長が短く大容量のデータを伝送できる2.5~3.6GHzの帯域における携帯電話とBWA(広帯域移動無線アクセスシステム)の割当てが拡大し7、主に固定・衛星系無線システムによる利用を想定していた3GHz超3.6GHz以下の帯域において主にデータ通信向けの移動系無線システムの無線局数が飛躍的に増加している。

その結果、3GHz超3.6GHz以下の帯域と3.6GHz超の帯域の延べ使用周波数帯幅に大きな差が生じてきている。延べ使用周波数帯幅は、各帯域における電波の利用の多寡を示すものであり、当該多寡は電波の利用価値の向上につながる事務により向上する電波の利用価値を受益する程度を表す指標であるとともに当該帯域の利用価値の現れと考えることができるため、前者と後者を同じ利用価値の帯域と捉えることが適当ではない状況となってきている。

470MHz以下の帯域は、波長が長く伝送できる情報量が少ないという性質から、引き続き音声通信を中心とする業務用無線等(簡易無線等)に用いられているところ、当該帯域への需要に大きな変化はなく、470MHz超3.6GHz以下の帯域と比較すると、無線局数は総体的に緩やかな伸びに止まっているため、両帯域の無線局数の差は年々拡大している。

その結果、470MHz以下の帯域と470MHz超3.6GHz以下の帯域の延べ使用周波数帯幅にも大きな差が生じてきており、同じ利用価値の帯域と捉えることが適当ではない状況となってきている。

上記を踏まえ、「a群に係る費用」の第一段階の配分について、電波の利用価値をより適切に反映した帯域区分に基づき行うようにするため、現行の「3GHz以下」、「3GHz超6GHz以下」の2区分を「470MHz以下」、「470MHz超3.6GHz以下」、「3.6GHz超6GHz以下」の3区分に改めることとし、当該帯域区分は、法別表第6等において料額を規定する際の無線局の区分に用いられているため、当該帯域区分の変更を反映した別表の改正を行った。

図2. 各帯域区分の概要

(出典)電波利用料の見直しに係る料額算定の具体化方針(平成31年2月5日)

3. 1. 2. 広域専用電波制度の見直し

現行の電波利用料は、原則として無線局1局ごとに負担することを前提に無線局1局当たりの料額を定めているが、例外的に法第103条の2第2項において、「広範囲において同一の者により相当数開設する無線局に専用させる周波数」を用いて開設する当該無線局には、その免許人に電波を能率的に利用するインセンティブ(置局数を増やしても電波利用料は増えないため稠密な置局促進)を付与するため、当該周波数を「広域専用電波」として指定し、帯域1MHz当たりの料額を定めている。

現行法では、広域専用電波として指定可能な周波数は、①3GHz以下の帯域かつ②同一の免許人が専用する帯域に限られていた。しかしながら、近年の無線技術の高度化に伴い、㋐3GHz超6GHz以下の帯域でも、携帯電話の利用が拡大しており、㋑広範囲において同一の者により相当数無線局を開設する帯域でも、他の免許人との帯域共用が可能となり現に行われている8。㋐・㋑に係る帯域についても、電波を能率的に利用するインセンティブの付与が必要であることは、①・②に係る帯域と変わりはない。

このため、広域専用電波として指定可能な周波数の上限を6GHzに変更するとともに、二人以上の免許人が共用する周波数であっても、そのうち一人の免許人が広範囲の地域に相当数の無線局を開設するために使用するものは、広域専用電波として指定できるようにした。これに伴い、名称を「広域専用電波」から「広域使用電波」と改めた。

また、広域専用電波に係る料額は、これまで法第103条の2第2項本文に規定していたところ、先述した帯域区分の見直しに伴う料額の区別が必要となること等から、従来の規定ぶりを維持した場合、条文の構造が複雑化し簡明性に欠けることとなるため、広域使用電波に係る料額は別表(本法律別表第8)を新設し規定することとした。なお、共用帯域を使用する免許人と専用帯域を使用する免許人では、電波利用による受益の程度が異なるため、共用帯域の1MHz当たりの金額は、専用帯域の1MHz当たりの金額の2分の1に相当する金額とすることを同表備考で規定した。

図3. 本法律による改正後の電波利用料の算定フロー

(出典)電波利用料の見直しに係る料額算定の具体化方針(平成31年2月5日)

3. 2. 非効率な技術を使用していると認められる公共用無線局に対して電波利用料を徴収する規定の整備

国の機関や地方公共団体等が開設する無線局のうち、治安、消防等の一定の公共目的で開設されるもの(公共用無線局)については、その高度の公共性に鑑み、電波利用料の全額又は半額が免除されている(法第103条の2第14項及び第15項)。

今後5Gの普及により周波数のひっ迫が想定され、新たな無線システムに割当て可能な周波数を継続的に確保するためには、公共用無線局においても電波の能率的な利用(より電波の能率的な利用に資する技術を用いた無線設備(例:アナログ設備→デジタル設備)の導入による周波数の利用効率の向上)を促進すること(余剰帯域を削減すること)が求められている。

このため、これまで電波利用料の全額又は半額が免除されていた公共用無線局であっても、電波の能率的な利用に資する技術を用いた無線設備を使用していないと認められるもの(政令で規定)については、電波利用料を全額徴収することとした。

3. 3. 電波利用料の使途の追加

電波利用料の使途となる電波利用共益事務は、法第103条の2第4項各号に列挙されている9。平成4年の電波利用料制度創設時は、電波利用共益事務の範囲は、電波監視、不法無線局の探査、総合無線局管理ファイルの作成・管理等に限られていたところ、その後、電波利用の高度化・多様化に対応すべく、累次にわたる見直しが行われてきた。

本法律では電波利用共益事務として、新たに「電離圏における電波の伝わり方の観測・分析等に係る業務(電波伝搬観測等業務)」及び「大規模災害時においても地上基幹放送又は移動受信用地上基幹放送の業務に著しい支障を及ぼさないようにするための設備の整備のための補助金の交付」を追加した。以下、各事務追加の背景等について説明する。

3. 3. 1. 電波伝搬の観測・分析等

太陽表面において爆発現象(太陽フレア)が生じると、電離圏10における電波の伝わり方に影響を及ぼし、その結果、人工衛星等の無線局の機能に障害を引き起こす可能性がある。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)では、太陽フレアや電離圏の観測等を通じて電離圏における電波の伝搬状況の変化を予測し、予報・警報の公表等を行っている11(以下「電波伝搬観測等業務」という。)が、様々な分野での電波利用の拡大に伴い、通信・放送システム等の安定的な運用の確保が一層重要となっていることから、電波伝搬観測等業務を強化する必要がある。

電波法の目的は「電波の公平且つ能率的な利用を確保することによって、公共の福祉を増進すること」(法第1条)である。電波伝搬観測等業務は、電離圏における電波の伝搬状況の変化の予報等を通じて、人工衛星等の無線局における電波の利用が阻害される事態を回避し、もって電波の能率的な利用を確保するものであるから、今般、本法律において、電波伝搬観測等業務を電波利用共益事務に追加することとした。

3. 3. 2. 地上基幹放送に関する耐災害性強化支援事業

基幹放送は、その社会的役割(国民が日常生活及び社会生活を営むに当たり必要な情報の提供により基本的情報の共有を促進等)を確実かつ適切に果たすために専用の周波数が確保され、災害時に当該役割が適切に果たされるように、放送法(昭和25年法律第132号)において、

・ 放送業務の実施主体たる認定基幹放送事業者12及び特定地上基幹放送事業者13(以下「基幹放送事業者」という。)に対し、災害放送の実施義務を課し(放送法第108条)、

・ 基幹放送の業務に用いられる電気通信設備14(以下「基幹放送の電気通信設備」という。)を当該業務の用に供する基幹放送事業者及び基幹放送局提供事業者15に対し、その損壊又は故障(以下「損壊等」という。)により基幹放送の業務に著しい支障を及ぼさないようにするため、当該電気通信設備を安全・信頼性に係る技術基準(以下「安全・信頼性基準」という。)に適合するように維持する義務を課している(放送法第111条及び第121条)。

しかし、安全・信頼性基準は、通常想定される災害による被災への対策を定めた基準であることから、大規模災害の発生時に、当該基準による対策を上回る被災により基幹放送の電気通信設備が損壊等して停波する事態が生じるおそれがあり、実際に地上基幹放送では停波事例もある。

このため、大規模災害時において、地上基幹放送及び移動受信用地上基幹放送(以下「地上基幹放送等」という。)が停波する事態に至らないような対策として、停電対策及び予備設備整備といった現用の地上基幹放送等の業務に用いられる電気通信設備に関する停波防止のための対策(以下「停波防止対策」という。)を講ずることが有効となるため、今回、停波防止対策に対し補助金を交付する(当該事務を電波利用共益事務と位置付ける)ことにより、放送事業者等による自主的な停波防止対策を促進することとした。(以下、上記の補助金交付の事務を「本事務」という。)

なお、本事務は、放送事業者等に対する調査等を通じて把握した停波防止対策の対象となる整備の数及び時期を踏まえ、臨時の措置として概ね今後5年間を目途として進めていくことを想定しているところ、現時点において向こう5年間の電波利用料の財源の確保について確実な見通しが立っていないことから、本事務に係る規定については期間を明確に規定することはせず、「当分の間」の措置として、法第103条の2第4項の適用に関する読替規定として置かれる、法原始附則第15項において規定することとした。

4. 周波数割当制度の見直し

4. 1. 特定基地局の開設計画の認定制度

携帯電話等(携帯電話及び広帯域移動無線アクセスシステムをいう。以下同じ。)の基地局については、通信の相手方である移動する無線局(陸上移動局)の移動範囲における無線通信を確保するため、同一の者により相当数開設されることが必要となる。

このため、法では、このような特定基地局について、総務大臣が開設指針を定め(法第27条の12第1項)、特定基地局を開設しようとする者が開設計画を作成し総務大臣の認定(法第27条の13第1項)を受けた場合は、一定期間(原則5年間以内)、特定基地局の免許を排他的に申請できることとしている(法第27条の17)。

開設計画の認定を受けた者は、このような排他的な申請をできるようになるため、特定基地局に係る周波数の電波については、より能率的な利用を確保することが必要となることから、総務大臣は、開設指針の記載事項(法第27条の12第2項)として、

  • ① 開設指針の対象とする特定基地局の範囲に関する事項(同項第1号)
  • ② 特定基地局に使用させることとする周波数及びその周波数の使用に関する事項(同項第2号)

のほか、

  • ③ 特定基地局の配置及び開設時期に関する事項(基地局によるカバー率や達成年度)(同項第3号)
  • ④ 特定基地局の無線設備に係る電波の能率的な利用を確保するための技術の導入に関する事項(電波の効率的送信技術)(同項第4号)

などを定め、当該認定に際し、開設計画が開設指針に照らし適切なものであり、かつ、確実に実施される見込みがあること等を審査(絶対審査(最低基準の適合性審査)と比較審査の二段階)すること(法第27条の13第4項)により、電波の能率的な利用を確保することとしている。

図4. 特定基地局の開設計画の認定制度の概要

(出典)総務省資料

4. 2. 既存周波数の利用を促進するための規定の整備

今般、携帯電話等には5Gが導入されるところ、その導入方法として、

  • ・ 新規に携帯電話等の免許を受ける者は、「㋐5G基地局のみを置局」する方法
  • ・ 既存免許人は、「㋑高度既設特定基地局(既設基地局(4G等基地局)を高度化(5G基地局と5G無線局との間の通信を確保するための機能を無線設備に付加)するもの)と連携させる形で5G基地局を置局」する方法

を採用することが想定される。

既存免許人が㋑の方法を採用するのは、5Gは従来よりも高い周波数帯(28GHz帯等)を使用し、その基地局は、4G等基地局に比べて電波の伝搬距離が短く、かつ、電界強度(ある地点での電波が届いている電波の強さ)が弱いという特徴があるため、4G等基地局と連携する㋑の方法を採用する方が5G基地局の整備を短期間かつ低コストで実現可能なためであり、この点に鑑みれば、5G基地局に係る電波の能率的な利用に資する方法と認められるものである。

㋑の方法を採用する開設計画の認定に当たっては、高度既設特定基地局の配置及び運用開始の時期を併せて審査しないと、特定基地局(5G基地局)のカバー率を適切に審査できないことから、「高度既設特定基地局に関する事項」も審査する必要があるところ、これまでは、特定基地局を高度既設特定基地局と連携させる形で開設することが想定されていなかったため、認定時に審査できるのは「③特定基地局の配置及び開設時期に関する事項」のみとなっていたところである。

以上から、㋑の方法を採用する開設計画の認定を適切に行うため、「高度既設特定基地局に関する事項」を開設指針や開設計画の記載事項に追加する等の措置を講ずることとした。

図5. 既存周波数の利用を促進するための規定の整備の概要

(出典)総務省資料

(1)特定基地局の開設指針の記載事項への高度既設特定基地局に関する事項の追加

開設指針の記載事項に、「①高度既設特定基地局の範囲に関する事項」(通信方式、周波数等)を追加するとともに、特定基地局の通信の相手方である無線局の移動範囲における無線通信を適切に確保するため、「②高度既設特定基地局の配置及び運用開始の時期に関する事項」を追加することとした(法第27条の12第2項)。

(2)特定基地局の開設計画の記載事項への高度既設特定基地局に関する事項の追加

開設計画の記載事項に、(1)①に対応し、「高度既設特定基地局の運用を必要とする理由」を追加するとともに、(1)②に対応し、「高度既設特定基地局の総数並びに使用する周波数ごとの高度既設特定基地局の無線設備の設置場所及び運用開始の時期」を追加することとした(法第27条の13第2項)。

(3)認定計画の認定の取消事由への高度既設特定基地局に関する事項の追加

特定基地局が高度既設特定基地局と連携している場合において、高度既設特定基地局を開設計画に従って運用していないときは、当該特定基地局の通信の相手方である無線局の移動範囲における無線通信が適切に確保されず、電波の能率的な利用が確保されていないことになるため、このような場合を開設計画の認定の取消事由として追加することとした(法第27条の15第2項)。

4. 3. 周波数の経済的価値を踏まえた割当手続に関する規定の整備

今般、携帯電話等に導入される5Gは、超高速(4Gの100倍)・超低遅延(4Gの1/10)・多数同時接続(4Gの100倍)といった特徴により、大量のIoT端末を同時に運用することが可能となるため、その利用ニーズは都市部などを中心に飛躍的に拡大することが見込まれることから、電波の更なる有効利用を確保することが必要となっている。

これまで、開設計画の審査事項は、総務大臣が定める「③特定基地局の配置及び開設時期に関する事項」・「④特定基地局の無線設備に係る電波の能率的な利用を確保するための技術の導入に関する事項」に基づき、採算性が低く免許人の自由に委ねていては取組が進みにくい地域を含めた全国での電波の有効利用の確保に主眼が置かれていた。

今般、携帯電話に導入される5Gでは、上記の特徴を生かした多様な利用方策が考えられ、収益をあげる観点から、事業者が創意工夫をしてより一層の電波の有効利用を図ることが期待できるところ、このような観点からの電波の有効利用の取組は審査することができなかった。

このため、電波の更なる有効利用を確保する観点から、特定基地局で使用する周波数の電波の経済的価値(将来の収益の割引現在価値)をより高く評価し、当該電波をより有効利用して多くの収益をあげようとする者の開設計画を認定できるようにする必要があるところ、開設計画の申請者による電波の経済的価値の金銭的な評価(以下「特定基地局開設料」という。)は、開設計画の認定時に審査することはできないことから、「特定基地局開設料に関する事項」を開設指針や開設計画の記載事項に追加する等の措置を講ずることとした。

図6. 周波数の経済的価値を踏まえた割当手続に関する規定の整備の概要

(出典)総務省資料

(1)開設指針の記載事項への特定基地局開設料に関する事項の追加

開設計画の認定に際し、特定基地局開設料の額の多寡を審査するため、「特定基地局開設料に関する事項」を開設指針の記載事項に追加した(法第27条の12第2項)。

(2)開設計画の記載事項への特定基地局開設料に関する事項の追加

(1)に対応し、開設計画の記載事項に「特定基地局開設料に関する事項」を追加した(法第27条の13第2項)。

(3)特定基地局開設料の納付義務

認定を受けた開設計画に係る特定基地局を開設する者(認定開設者)について、開設指針に定める納付の期限までに特定基地局開設料を現金や小切手により国庫に納付する義務を規定した(法第27条の13第8項)。

(4)特定基地局開設料の未納の場合における免許の欠格事由及び認定の取消事由の追加

特定基地局開設料が納付されるまでの間はその認定に係る特定基地局の免許を与えないことができることとするとともに、納付の期限までに特定基地局開設料を納付していないときは認定を取り消すことができることとした(法第5条第6項及び第27条の15第2項)。

(5)特定基地局開設料の使途に関する制度の整備

特定基地局開設料の見込額に相当する金額を、電波を使用する高度情報通信ネットワークの整備を促進するために必要な施策等Society 5.0の実現に資する施策の実施に必要な経費(ただし、電波利用共益費用(電波の適正な利用の確保に関し総務大臣が無線局全体の受益を直接の目的として行う事務の処理に要する費用(法第103条の2第4項))に該当するものを除く。)に充てる旨の規定を追加した(法第103条の4)。

5. 調査・研究等用端末の利用の迅速化に関する規定の整備

無線局を開設しようとするときは、当該無線局の無線設備について法に定める技術基準に適合していることの確認(免許を要する無線局の場合は総務大臣による審査、免許不要局の場合は技術基準に適合していることの証明の取得)が必要とされるところ、例外的に、海外からの持込端末等については、当該確認がなくても、我が国の技術基準に相当する技術基準(以下「相当技術基準」という。)に適合しているときは、一定の条件の下で当該無線設備を使用した無線局の開設及び運用が認められている。

我が国の事業者には、海外のスマートフォンやセンサー等を用いて新サービスや新製品を開発するための実験等を行うニーズが高まっているところ、(我が国の市場の魅力が相対的に低下する中で)当該実験等に用いる無線設備の多くは我が国の技術基準に適合していることの証明を取得しておらず、また、開発元でない我が国の事業者は当該証明の取得が困難なため、当該実験等を断念せざるを得ないケースが多数生じていることから、今回、海外からの持込端末等の制度16に倣い、

  • ① 相当技術基準に適合するWi-Fi等の無線設備(法第4条第1項第3号の免許不要局に相当するもの)を使用する実験等無線局については、総務大臣に届出をした場合は、当該届出の日から最長180日間に限り開設・運用ができることとし、
  • ② 相当技術基準に適合するLTE等の無線設備を使用する実験等無線局(第一号包括免許人(携帯電話事業者等)の責任の下で運用可能な無線局)については、総務大臣の許可を受けた場合は、その開設・運用ができることとした。

図7. 調査・研究等用端末の利用の迅速化に関する規定の整備の概要

(出典)総務省資料

本制度整備に関連して、旧法において実験等無線局及びアマチュア無線局では暗語の使用が禁止されていたところ、実験等無線局については禁止の妥当性が失われているため、暗語の使用禁止の対象からこれを除外することとした。

6. おわりに

本法律は、公布の日(令和元年5月17日)から起算して9月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしているが、特定基地局の開設計画の認定に関する改正規定等は公布の日から、実験等無線局の開設及び運用に係る特例に関する改正規定等は公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしている。

なお、本法律の施行後3年以内に、本法律による改正後の規定の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずることとされている。

脚注

1 Society 5.0とは、「①サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させることにより、②地域、年齢、性別、言語等による格差なく、多様なニーズ、潜在的なニーズにきめ細かに対応したモノやサービスを提供することで経済的発展と社会的課題の解決を両立し、③人々が快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる、人間中心の社会」と定義されており、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く新たな経済社会と位置付けられている(平成28年5月閣議決定「科学技術イノベーション総合戦略2016」)。

2 Internet of Thingsの略。PCやスマートフォンに限らず、ロボット、工場等施設、家電、車等の様々なモノがインターネットに繋がること。

3 電波有効利用成長戦略懇談会<http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/dempayukoriyo/index.html>

4 法第103条の2第4項に列挙されている。

5 同時に発射できる周波数幅を指す。これにより、当該帯域のひっ迫度を測定する。

6 電波利用共益費用増額の主な要因は、今後の我が国にとって必要不可欠な5GやIoTの普及拡大に向けて、「高速な5Gを支える光ファイバ網の整備に対する支援」、「5Gの周波数を拡大していくための既存の無線システムの利用状況調査や周波数共用技術」、「IoTに係るサイバーセキュリティ対策の強化等の取組を推進」等の取組を推進するため必要となる費用に対応するもの。なお、これらの取組は既存の電波共益事務の範囲内の取組であるため、本法律において新号を追加する等の改正は行っていない。(3.3.で解説するのは、新号についてである。)

7 平成26年12月には3480~3600MHzの帯域が、平成30年4月には3400~3480MHzの帯域が携帯電話システム向けに割り当てられた。

8 例えば、3.5GHz帯では携帯電話の免許人と衛星通信(宇宙から地球へのダウンリンク通信)等の免許人とで周波数を共用する形態となっている。

9 電波利用共益事務のうち、時限的に実施するものについては、法附則第15項及び第16項に規定されている。

10 地表から高さ約60キロメートル以上の大気圏上層部に存在する、太陽からの紫外線等の作用によって大気の分子・原子が電離した状態にある領域である。電離圏には、電波の伝わり方に影響を及ぼす自由電子が比較的高密度で存在する。人工衛星は、電離圏を透過する特性の電波を利用して地上と通信を行っており、地上の無線局の多くは、電離圏を反射する特性の電波を利用して遠隔地と通信を行っている。

11 国立研究開発法人情報通信研究機構法(平成14年法律第162号)第14条第1項第4号及び第6号

12 放送法第93条第1項に基づき、基幹放送の業務の認定を受けた者(同法第2条第21号)。

13 法の規定により自己の地上基幹放送の業務に用いる放送局の免許を受けた者(放送法第2条第22号)。

14 「基幹放送の業務に用いられる電気通信設備」は、「基幹放送局設備」と「基幹放送設備」で構成される(放送法第2条第24号及び第93条第1項第3号)。「基幹放送局設備」は、基幹放送局提供事業者が責任主体であり、基幹放送の無線設備及び番組送出設備(中継回線設備を含む。)の全部又は一部で構成される。また、「基幹放送設備」は、認定基幹放送事業者が責任主体であり、「基幹放送の業務に用いられる電気通信設備」から「基幹放送局設備」を除いたものであって、その範囲に番組送出設備(中継回線設備を含む。)の一部を含む場合がある。

15 法の規定により基幹放送局の免許を受けた者であって、当該基幹放送局の無線設備及びその他の電気通信設備のうち総務省令で定めるものの総体を認定基幹放送事業者の基幹放送の業務の用に供するもの(放送法第2条第24号)。

16 相当技術基準に適合する海外からの持込端末については、入国の日から最大90日間に限り、当該持込端末を使用した無線局を開設及び運用が可能(法第4条第2項)。また、第一号包括免許人は、相当技術基準に適合するLTE等の無線設備を使用する外国の無線局(相当技術基準に適合するLTE等の外国の無線局の無線設備を使用して開設する無線局を含む。)について、総務大臣の許可を受けて開設又は運用が可能(法第103条の5)。

 
© 2019 総務省情報通信政策研究所
feedback
Top