情報通信政策研究
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寄稿論文
AI原則の事業者による実施とコーポレートガバナンス
小塚 荘一郎
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2020 年 4 巻 2 号 p. 25-43

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抄録

日本をはじめ各国でAI原則の策定が進み、その一般的な内容については、ほぼコンセンサスが成立している。そうした中で、今後は、AI開発や利活用に関係する事業者によるAI原則の実施が重要な課題となる。AI原則の実施とは、各事業者がAI原則をなぞるようにしてAI指針を作成すればよいということではないし、CSR活動の連想から想定されがちな「本業に余力がある範囲での社会的活動」であってもならず、企業組織内で実効性が確保されるように、それをコーポレートガバナンスの一環として位置づける必要がある。また、AI製品の開発過程には、通常、複数の事業者が関与するので、そうした開発契約に連なる当事者(サプライチェーン)の全体にわたって、契約関係のガバナンスとして行うことも求められるであろう。

コーポレートガバナンス理論との関係では、まず、会社経営者に株主の利益最大化を基準とした行為規範を課すという考え方には、近年、反省が提起されている点を指摘できるであろう。株主の長期的な利益を実現するためにはステイクホルダーの利益に十分な配慮を必要とするという考え方は、日本でも定着しつつある。AI原則の実施は、社会によるAIの受容を促進するので、AIの開発や利活用に携わる事業者の中長期的な利益になるということは、理解しやすい。また、企業活動から生ずる外部不経済を抑制することの必要性も、地球環境問題や労働・人権問題などとの関連で共有されつつあり、AIが社会の基本的な価値に反して利用されないようにするためのAIガバナンスは、むしろそれらと同様の取組として位置づけることもできるであろう。

AI原則を実施するためのAIガバナンスは、それ自体としては、事業者による取組である。しかし、それを促進することは、社会的にも意義がある。社会による集団的な意思決定に際して、市場メカニズムを通じた「退出」や規制の執行による「忠誠」によることも考えられるが、AI製品については、いずれも、十分に機能するとは限らない。そうした中で、AIの利用態様について社会的に見解が分かれ、法的なルールがまだ存在しない場面も含め、社会からの「発言」を受け止め、責任をもってAIの開発と利活用を進めるというアプローチが適合的であると考えられる。これこそが、事業者によるAIガバナンスの社会的な意義であると考えられる。

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