情報通信政策研究
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寄稿論文
電気通信契約の法的構成にかかる試論
西内 康人
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2021 年 5 巻 1 号 p. 97-111

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抄録

電気通信により情報を伝達する契約は、民商法の教科書類で取り上げられることもあったものの、特別法や約款で規律されてきたこともあり記述的考察が中心であった。しかし、いくつかの点から民事的に規範的考察を加える必要がある。その一つは、強行法規の有無である。このほかに、定型約款の規制や消費者契約法10条の規制を考えるベースラインとしてそうした契約を規律する任意法規を考える必要がある。そこで、本稿では、現行の規律とのアナロジー、原理の活用や、目的論的解釈を通じて、こうした規範的考察、特に債務不履行に関する責任設定基準の内容についての考察を行うことを目的とする。具体的には、①こうした契約が典型契約のいずれに整合するかという問題と、②こうした契約に関係した有償・無償の区別に関する問題を扱う。①については、電気通信が信書に近いものであるとすれば、商法上は運送、民法上は請負に区分されうることを前提にする。その上で、民法上の区分は請負とした方がよいのか、それとも、データの「保管」的作用をとらえて寄託に区分した方がよいか、あるいは、役務提供契約の受け皿的規定である準委任に区分した方がよいか、こうした点を考察する。また、商法上の運送の規律はこうした契約にどこまで及ぶべきか、問題となる商法の規定が民法の特則を定めている理由の分析を行い、そこから目的論的解釈として、商法の規定の射程を考察する。その後、②については、まず、有償・無償という区分が民事的規律にとっていかなる意味を持つかをまとめる。特に、無償とされた場合の債務不履行に関する責任設定基準への影響をまとめる。その上で、有償・無償を区分する主観的基準・客観的基準が民事上どのように考えられているのかに照らして、本稿で問題とする契約ではどのような点が有償性認定への支障となりうるのかをまとめる。すなわち、主観的基準としては役務利用者と利益提供者がズレてしまう可能性、また、客観的基準としてはデータの取得が対価給付に該当しうるかを考察する。②ではこれらに引き続いて、無償契約としたままでも、有償契約と同様の責任設定基準を設定できるかどうか、法の経済分析も用いつつ検討する。

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