情報通信政策研究
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特別寄稿
アバターのなりすましを巡る法的課題
プライバシー保護の観点から
石井 夏生利
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2022 年 6 巻 1 号 p. 1-20

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抄録

本稿では、メタバースで活動するアバターのなりすましを巡る法的課題と対応策について、主にプライバシー保護の観点から考察した。仮想空間と現実世界の大きな違いは、アバターを用いることで外見の制約から解放される点にある。

第1節では、メタバースにおいて、本人の意に沿わない方法で他者から不正にアバターを利用されることに伴う人格権等の問題などに言及した。

第2節では、アバターの利用を巡るプライバシー権を検討した。自己のイメージや自己像を自由に形成できる権利若しくは法的利益、又は、他者による自己のイメージ又は自己像の不当な改変からの保護を受けることに関する権利若しくは法的利益は、いわゆる人格権又は人格的利益による保護対象に含まれると考えられる。

メタバースにおいては、1人が1つのアバターを利用する場合に加えて、1人が複数のアバターを用いる場合においても、当該アバターを通じて本人の人格が一部でも表出されていれば、本人とアバターの同一性を肯定することはできる。しかし、複数名が1つのアバターを利用する場合には、無権限者が当該アバターを不正に利用したとしても、アイデンティティに関わる人格権等の侵害可能性は相対的に低下すると思われる。

第3節では、侵害行為である「なりすまし」を3つのパターンに分けて検討した。①他者の環境内でのみ本人のアバター表示を偽る行為であっても侵害行為の一種と捉えるべきであるが、それを制限する法的義務を課すことは、他者のプライバシーを保護する観点から慎重な立場を採らざるを得ない。②改変した本人のアバター表示を第三者と共有する行為は、「アイドルコラージュ」や「ディープフェイク」の問題と共通する。これらは、成立範囲の広い名誉毀損構成によって処理されているが、「社会的評価」の低下については、より精緻に分析し、射程範囲を可能な限り明確化すべきである。③他者が本人の氏名と外見を用いて自己のアバターを作成し、仮想空間上で利用する場合に、当該他者が偽物であることを自認している場合の責任が問題となる。没入感という特殊性から本人像に歪みが生じる危険があり、それを既存の確立した法理によって解決するのが困難な場合には、アイデンティティ権等の保護を論じる意義はある。

第4節では、前節までの検討結果を整理し、第1に、自己のイメージ・自己像や自己の人格的同一性を保護するためのアイデンティティ権等(法的利益を含む)の性質や保障内容を明らかにすること、第2に、本人のアバターを不当に改変される行為に対して制限を設ける際の条件や制限方法が課題となる旨を明らかにした。そして、適切なID管理の方策として、本人確認技術、本人確認のための第三者認証制度、アバターの登録制に言及し、第5節では今後の展望に触れた。

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