2023 年 6 巻 2 号 p. 1-13
新しい法学分野である情報法について、その厳密な内包外延を「情報」の概念からただちに導き出すことは難しい。むしろ、今日、情報法の教科書等で扱われるテーマとして共通了解され、定着してきている内容を通覧することから、情報法のイメージを浮かび上がらせることができる。情報法の基礎となる理念は、情報の自由ないし情報流通の自由であり、また論争的ではあるが、「情報に対する権利」である。「情報に対する権利」は戦略的な概念であり、ユニバーサル・サービスの充実や情報環境の形成における個人の主体的・能動的な関与を促す役割を果たしうる。
情報法で扱われている内容を通覧して見えてくるのは、第一に、情報の「タフ&ナイーブ」という特性であり、この性質は、倫理や自主規制あるいはアーキテクチャ論などの規律手法に親和的である。第二は、「自律」という理念であり、それは、個人情報の利活用等の場面で留意すべき視点を浮き彫りにするとともに、情報秩序が自律を前提として機能すること、また情報法が自律を支える基盤となるべきことを意識化させる。第三は、急速な情報化に対応する「スピード」であり、それが、情報をめぐる法と政策の近接性や学際的研究への要請を高めている。
情報法はなお発展途上の「フロンティア」であり、新しい情報技術や情報環境がもたらす課題への法的応答を絶えず迫られる中で、自由と規制という枠組みだけでなく統治構造論的な視点も含めて、柔軟さと想像力を備えた研究の発展が期待される。情報法の定義や基本理念、規律の手法などをめぐる議論はなお将来に開かれている。