2025 年 39 巻 4 号 p. 213-226
超高齢化社会の到来に伴い,高齢者の疾病発症予防や健康寿命延伸は,医療費削減の観点から喫緊の課題となっている.我々は20年にわたって,高齢者の日常的な身体活動と心身の健康に関する疫学研究として「中之条研究」を実施してきたが,2014年からは,高齢者の腸内細菌叢や乳酸菌摂取が健康に与える影響についても検討している.近年,ヒトの腸内には膨大な数の細菌が存在し,ヒトの健康に大きな影響を与えることが明らかになってきたが,その全体像は十分に把握されていない.腸内細菌のなかでも,乳酸菌が健康に有益であるという報告が増えてきている.Lacticaseibacillus paracasei YIT 9029(LcS)は,多くの臨床研究により整腸,感染症予防,ストレス緩和や睡眠改善等の健康効果を有することが報告されている.LcSを含む乳製品は,日本国内で1日約1000万本飲用されているが,日常生活を営む一般住民において,これらの乳製品の摂取が健康に与える影響は十分に検討されていない.そこで我々は「中之条研究」において,高齢者における腸内細菌叢の経時的変化等の基礎的検討,食事,LcS摂取頻度および身体活動と腸内細菌叢との関係に関する検討を実施した.また,一般生活における高齢者のLcS摂取が健康に与える影響を考察するため,LcS摂取と腸内細菌叢の安定性,高血圧発症,排便状況および体力指標との関係を疫学的に検討したので,本稿で概説する.