日本食生活学会誌
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年齢階級別にみた高齢者の食習慣
佐藤 紀代美
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2000 年 11 巻 3 号 p. 241-250

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抄録

65歳以上の高齢者78名を対象とし, 「子供の頃」, 「若い頃」, および「現在」の食生活に関する調査を実施した. 筆者は, 対象者の年齢によって「子供の頃」や「若い頃」に体験した食生活が異なることに注目し, このことが現在の食習慣に及ぼす影響を考慮するために, 65~69歳, 70~74歳, 75~79歳, および80歳以上の四つの年齢階級に分類した. 各年齢階級の現在の食習慣の特徴を考察し, 以下の結果を得た.
65~69歳:「子供の頃」は恵まれた食生活であったとは言えないが, 「若い頃」の食生活は安定していた.「現在」の食習慣の特徴としては, 年齢階級が最も低いにもかかわらず, 肉類あるいはその料理の摂取割合や摂取頻度が他の年齢階級よりも低い傾向が見られることが挙げられる
70~74歳:「子供の頃」の食生活は比較的安定していたが, 「若い頃」の食生活はかなり貧しかった.「現在」の食習慣に明らかな特徴が見られなかったが, この理由の一つとして, 過去の食生活の中でも嗜好を確立するのに大きな影響を与えると思われる「子供の頃」の食生活が安定していたことが考えられる.
75~79歳:「子供の頃」と「若い頃」の両時期に渡って食生活はかなり貧しかった.「現在」の食習慣の特徴として, 動物性食品の摂取割合が少ない傾向にあり, その中でも男性における肉類の摂取頻度が著しく低いことと, 男女ともに牛乳の摂取頻度が著しく低いことが挙げられる. これらの要因として, 幼少期から青年期までの長期間に渡る貧困な食生活による嗜好の偏りが考えられる.
80歳以上:「子供の頃」と「若い頃」の両時期ともに食生活には恵まれており, 他の年齢階級よりも動物性食品の摂取割合が多く, 中でも肉類の摂取割合が多かった. このような過去の食生活は, 年齢階級が最も高いにもかかわらず, 肉類あるいはその料理の摂取割合や摂取頻度に高い傾向が見られるという「現在」の食習慣の特徴に影響を及ぼしているとも考えられる. また, 80歳以上の「現在」の食習慣においては, パンを主食とする割合が著しく多く, 味噌汁の摂取頻度が低い傾向が認められた. これは飯を主食とし, その副食として味噌汁を供するという日本型食生活が最も高い年齢階級においても変化してきていると推察される. これらの結果は, 本人の意志のみではなく, 80歳以上の高齢者が現在取り囲まれている環境が大きく影響しているものと思われる.
また, 高齢者においても若年層と同様に米食離れの傾向が見られることが明らかになったこと, 身体に良い食品として日常, 習慣的に牛乳を摂取している者の割合が非常に多いこと, および食生活を含めた生活習慣に対する意識の差に性差が見られることは注目すべきことである.

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