抄録
AI技術を実践的に活用するためにいかなる条件が必要かについて,考察を加える.インターネットにあふれるビッグデ
ータの活用をめざして第三次 AI ブームが起きている.深層学習に代表される新たな AI 技術は,画期的な情報技術革新であり,経済成長をもたらすという期待の声が高い.さらには,やがて人間より賢い AI が出現し,人間にかわって仕事をしてくれるというシンギュラリティ仮説も話題を呼んでいる.しかし,そういった夢想を語る前にまず,現在の AI 技術の特徴に注目し,それが実社会で善用されるための条件を見極めないとブームは消滅してし まうだろう.現在の AI の特徴は,深層学習に代表される統計処理である.統計処理なので確率的な誤りが発生するが,この点に配慮しつつシステムを運用する保守維持技術の確立が第一の条件となる.さらにまた, AI の自律性を過信すると人間が機械的なデータに還元され,自由のない抑圧的な社会となってしまう.これを防ぐため,情報概念を単に機械的なものでなく社会的/生命的なものに拡張する情報教育の普及が第二の条件である.これら二条件が満たされないかぎり,人間中心の AI 情報社会の構築は困難となるだろう.