日本救急医学会雑誌
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症例報告
偶発性低体温症に合併した非閉塞性腸管虚血症(NOMI)の1例
平野 洋平林 伸洋角 由佳井上 貴昭松田 繁岡本 健田中 裕
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2013 年 24 巻 7 号 p. 437-442

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抄録
非閉塞性腸管虚血症(non-opcclusive mesenteric ischemia: NOMI)は早期診断が難しく,致死率の高い疾患である。敗血症や外傷,急性膵炎などの循環不全を来す疾患に合併することがよく知られているが,我々は偶発性低体温症に伴う循環不全にNOMIを合併した症例を経験したので報告する。症例は74歳の男性で,意識障害を主訴に搬送された。来院時,直腸温22.7℃,収縮期血圧72mmHgと重度の低体温症と循環不全を認めており,加温輸液および体外式加温装置による復温を開始した。来院4時間後には体温は36℃台まで復温され,循環動態も安定した。しかし,その後再度徐々に循環動態は悪化し,大量輸液,カテコラミンに反応しない著明な乳酸値の上昇を認め,ショック状態が遷延した。Disseminated intravascular coagulation(DIC)の合併も認められ,乾燥濃縮ヒトアンチトロンビンⅢ製剤および遺伝子組み換えトロンボモジュリンアルファ製剤投与を開始した。徐々に腹部膨満が増強し,エコー上腹水の貯留も認めたため,来院48時間後に腹腔穿刺を施行したところ血性腹水が確認された。緊急腹部造影CT検査施行し,急性腸管虚血症(acute mesenteric ischemia: AMI)の所見を認め,緊急開腹術を実施した。開腹するとTreitz靱帯より20cm位からS状結腸に至るまで,全層性の腸管壊死所見を認め,全小腸結腸切除術を施行した。しかしながら術後循環不全を離脱できず,第4病日に死亡した。病理所見上,腸管の全層性の虚血壊死を認めたが,血管内に血栓像は指摘されず,画像所見,術中所見と合わせてNOMIと診断した。偶発性低体温症では,復温までの循環不全の遷延化に起因すると考えられるNOMIなどのAMIを合併する可能性をがあり,発症予防とともに早期の発見・治療に努めるべきである。
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© 2013 日本救急医学会
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