日本救急医学会雑誌
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症例報告
大腸癌心嚢転移による癌性心タンポナーデの1例
大塚 恭寛五十嵐 信之小松 悌介高橋 誠
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キーワード: がん救急, 心嚢液, 心嚢穿刺
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2013 年 24 巻 7 号 p. 443-447

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抄録
症例は67歳時にS状結腸癌・肝転移に対してS状結腸切除術・左肝切除術を施行され,多発性肺転移再発に対して埋込型中心静脈カテーテル挿入留置下にがん化学療法を継続中であった75歳の女性である。就寝中に突然出現した咳嗽と呼吸困難を主訴に当院外科を救急受診した。意識は清明であったが頻脈,呼吸数増加,SpO2低下,顔面浮腫,四肢末梢冷感を認め,胸部単純X線上の心陰影拡大と超音波検査上の多量の心嚢液貯留を認めた。心タンポナーデの診断下に緊急心嚢穿刺ドレナージ術を施行したところ,血性心嚢液800mlが吸引され,速やかにバイタルサインの改善と自覚症状の軽快が得られた。心嚢液の細胞診にて異型円柱上皮細胞の集塊を認め(class V),本例の病態は大腸癌心嚢転移による癌性心タンポナーデ(carcinomatous cardiac tamponade: CCT)と診断した。第3病日に心嚢ドレーンを抜去し,第17病日に独歩退院したが,9か月後に肺転移増悪のため永眠された。我々が文献的に検索し得た範囲では,生前診断された大腸癌心転移の本邦報告例は8例で,うちCCT併発例は4例である。化学療法の進歩により進行大腸癌患者の長期生存が期待し得る現代においては,CCTは今後増加することが予想される重要なoncologic emergencyのひとつであり,積極的な緊急心嚢穿刺ドレナージによる突然死の回避が,患者のさらなる生存期間延長とquality of life向上に大いに寄与することを全ての救急医が認識しておくことが重要である。
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© 2013 日本救急医学会
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