日本救急医学会雑誌
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ICU入口の抗菌粘着マットはコストベネフィットの観点から廃止されるべきである
近藤 司松宮 直樹
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2003 年 14 巻 5 号 p. 258-262

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抄録
ICUの入口に抗菌粘着マットを置く感染予防策はわが国の多くの病院で行われているが,米国CDC (Centers for Disease Control and Prevention)の院内感染対策ガイドライン(1999)では無効な対策とされている。当院救命センターICUでも抗菌粘着マットを使用していたが,2001年4月に廃止した。その前後でICU入室患者の感染率を調査し,抗菌粘着マットが患者感染率を低下させ得たか否かについて検討した。さらに廃止による医療経済効果についても検討した。サーベイランスはICUに入室した全症例についてディバイス関連感染率をNNIS (National Nosocomial Infection Surveillance)ガイドラインに従って調査した。調査期間は2001年1-3月(廃止前:A群)と2001年4-6月(廃止後:B群)とした。平均在室日数,APACHE (acute physiology and chronic health evaluation) IIスコア,各ディバイスの使用率,感染率を算出し比較した。平均在室日数,APACHE IIスコアには群間の有意差を認めなかった。ディバイスは使用率,感染率ともbloodstream infection, ventilator associated pneumonia, urinary tract infectionのすべてについて両群間の差がなかった。今回の研究でCDCガイドラインの通り抗菌粘着マットはICU入院患者の感染率を低下させ得ないことがわかった。抗菌粘着マットは無益な感染対策と考えられ,医療経済的には無駄である。当院では2000年度には1年間に約450万円,2001年度には150万円をマット代として支出していた。この費用を感染対策教育など,他の有効な感染対策にまわせば,より効果的な対策が行える。院内感染対策に最も重要なのは教育と意識改革であり,安易な物品導入による無益な対策を行ってはならない。
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