日本応用動物昆虫学会誌
Online ISSN : 1347-6068
Print ISSN : 0021-4914
ISSN-L : 0021-4914
アブラムシの有翅型胎生雌の出現について
III. キビクビレアブラムシRhopalosiphum prunifoliaeにおける型決定の臨界期
野田 一郎
著者情報
ジャーナル フリー

1958 年 2 巻 1 号 p. 53-58

詳細
抄録

アブラムシにおける胎生雌の型決定には温度,光その他いろいろの要素が関係しているようであるが,ムギ類の害虫であるキビクビレアブラムシRhopalosiphum prunifoliaeの場合には高棲息密度と絶食が大きな影響力を持っている(野田,1954, 1956)。これら諸要素の作用と有翅型出現の関係を明らかにするためには,まず型決定の臨界期を明確にしておくことが先決問題である。本実験においては上述の2要素(高棲息密度と絶食)の作用を利用して,このアブラムシにおける前記臨界期と生翅の最盛期を明らかにすることができた。実験はすべて暗黒下定温25°Cで行った。その結果を要約すると次のとおりである。
1) 有翅型は胎生された直後から生後38.5時間目(これは第1回脱皮直後から起算すると10時間目にあたる)以内の間に決定される。この臨界期を経過した後においては外部からの刺激の影響を受けることがない。
2) 理論上の生翅の最盛期は生後21時間目である。すなわち幼虫第1令後半期の半ばごろである。
3) 50%以上の幼虫が5時間の絶食によって有翅型に変り得る時期は,理論的には生後14.5時間目から生後27.5時間目までの間である。この時期は幼虫第1令の中期から後期に相当する。
4) 絶食の有翅型出現に対する影響力は,高棲息密度のそれよりも一般に大きいようである。
5) 同一の生育途上にある幼虫を絶食させた場合には,絶食期間の長いほど有翅型出現率が高くなる。
6) しかるに生後15時間または20時間経過した幼虫を5時間絶食させた場合と,生直後の幼虫または生後5時間経過したものを15時間絶食させた場合とを比較すると,後者のほうがはるかに絶食時間が長いにもかかわらず,有翅型出現率はかえって低位である。これは生育初期に絶食の刺激を加えると,SHULL (1942)が暗示したように生翅に関係あるホルモンの分泌などに,変調をきたすためではないかと考えられる。

著者関連情報
© 日本応用動物昆虫学会
前の記事 次の記事
feedback
Top