民法は認知症者など精神障害者の不法行為の損害を家族に賠償させてきた.しかし家族が一律にこの責任を負うと在宅介護の阻害要因となる.本稿は賠償責任主体と徘徊事故防止措置を整理し,今後の事例に示唆を与えることを目的とした.方法は,認知症者が線路に立ち入り死亡し鉄道会社が家族に賠償請求した2016年最高裁判決と徘徊による介護事故判例の分析を行い,徘徊事故に関する賠償責任を総合的に研究した.2016年最高裁判決は家族であることを理由に認知症者の監督義務はないとし,精神障害者の他害行為責任を負う準監督義務者の判断要素を示した.分析の結果,この要素は介護者・被介護者の状況と関係性の考慮を求め,親族関係を決定的としないなど家族の負担減を示した.また,介護事故判例の分析により,裁判所は介護者に高度な徘徊防止措置を求めていないことがわかった.これらは,在宅介護を選ぶ家族介護者と認知症者の人権保障につながるであろう.