抄録
目 的
18か月児を持つ母親の「怒り—敵意」に関連する要因の探索,および対児感情への影響を調査し,虐待予防に繋がる子育て支援を講じる際の基礎資料とする。
対象と方法
妊娠末期から継続して調査している母親69名が産後18か月になった時点で自記式質問紙を郵送し調査を行った。妊娠末期・産後入院中・産後1か月・産後18か月の全ての時期に有効回答の得られた33名を対象とした。調査項目は,属性,ストレス内容および対処法,日本版POMSによる気分,対児感情,対夫感情である。
結 果
産後18か月は「怒り—敵意」が他の時期にくらべて最も高く,他の時期の「怒り—敵意」および否定的な気分と高い相関がみられた。接近得点,回避得点,拮抗指数も他の時期に比べ高かった。接近得点は時期間で有意差がみられた。産後18か月の「怒り—敵意」に関連していたのは,年齢,ストレス自覚とストレス内容「疲労」,ストレス対処「放棄・諦め」「肯定的解釈」,対夫感情の「回避得点」であった。「怒り—敵意」と対児感情とは直接的な相関はみられなかった。接近得点はストレス対処「肯定的解釈」と,回避・拮抗指数は対夫感情「回避得点」と関連がみられた。
結 論
産後18か月の「怒り—敵意」の要因は直接子どもに対するものではなく,夫の手伝いや疲労によるものであったが,「怒り—敵意」が解消されないと,子どもへの虐待も危惧される。予防策として,ストレスを諦めや放棄ではなく肯定的に捉えることができるよう意味づけし,解決方法を提示していくこと,夫婦間の性役割の共通認識を促すことが有用と考える。そして,産後1か月健診では身体回復の確認や母乳支援とともに,心理面のアセスメント,気分・子どもへの肯定的感情への意識的な働きかけ,夫を含む家族の関係性を重視した子育てへの関わり方について再考していくことの必要性が示唆された。