日本助産学会誌
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原著
周産期のグリーフケアにおける「そばにいる」という助産実践の意味
谷崎 望田中 浩二丸山 佳奈塩崎 ゆかり乙﨑 亜希子
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2025 年 39 巻 1 号 p. 166-176

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抄録

目 的

周産期のグリーフケアにおける「そばにいる」という助産実践の意味を明らかにする。

対象と方法

産科病棟の経験が5年以上の助産師に,「そばにいる」1場面を想起してもらい,非構成的面接を実施した。得られたデータは,Bennerの解釈学的現象学的アプローチを用いて分析した。

結 果

研究参加者は,8名の助産師で,経験年数は6~24年であった。周産期のグリーフケアにおける「そばにいる」という助産実践の意味として,4つのテーマが導き出された。1)【ありのままを壊さない】「そばにいる」意味は,子どもを亡くした母親のありのままを受け入れることであった。助産師は,母親の思いを聴き出すことを目的とせず,見えない感情の波にともに漂うことを大切にしていた。その在り方は,母親のいる景色に溶け込み,自らの存在感を消すような姿勢であった。2)【溢れ出る感情を守る】助産師が母親の「そばにいる」ことによって,互いに通じ合う関係が築かれていた。その意味は,母親の内にある感情を表出する場をつくり,助産師が母親の溢れ出る感情をすべて受け止め続けることであった。3)【命への敬意とはじまりの共有】助産師にとって,新しい命を産む母親や生まれてくる子どもの命は,生死に関わらず尊いものであった。亡くなったとしても未来へ繋がる大切な命であり,助産師は,このメッセージを柔らかい態度で「そばにいる」ことで伝えたいと願っていた。4)【亡くなった子が確かにいた証を残す】周産期喪失では,母親の悲しみは社会的に理解され難いものであった。助産師は,母親の「そばにいる」ことを通してその情景や感情を記憶に刻み,亡くなった子どもの存在を保証していた。そのことは,母親の悲嘆プロセスに重要な意味を持っていた。

結 論

周産期のグリーフケアにおける「そばにいる」という助産実践は,ありのままの母親と大切な命が存在したという事実を守り,母親の未来へ繋がる意味を持っていると考えられた。

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