本研究の目的は,各種咀嚼運動が身体重心動揺に与える影響を明らかにすることである.健常有歯顎者20 名(男性 10 名,女性10 名,平均年齢28.5±4.2 歳)の重心動揺を足圧分布測定システム(フットビュークリニック®,ニッタ社)を用いて測定し,定量的指標として総軌跡長を用いた.開眼と閉眼の安静時(直立姿勢で下顎安静位の保持)の総軌跡長,および開眼時の安静時と各種咀嚼運動時における総軌跡長を測定した.咀嚼運動はチューインガムを被験食品とし,軟化前自由咀嚼時,軟化後自由咀嚼時,軟化後片側咀嚼時の3条件下で行った.分析は総軌跡長について,安静時の開眼と閉眼との間で対応のある平均値の差の検定を行った.次いで安静時,軟化前自由咀嚼時,軟化後自由咀嚼時,軟化後片側咀嚼時の4 条件間で多重比較を行った.総軌跡長は,安静時の開眼と閉眼との比較では,開眼のほうが有意に短かった.安静時と各種咀嚼時の4 条件間の比較では,軟化前自由咀嚼時が最も長く,安静時,軟化後自由咀嚼時,軟化後片側咀嚼時の順に短くなり,軟化後片側咀嚼時が有意に短かった.これらの結果から,重心動揺は,閉眼時よりも開眼時のほうが安定すること,安静時よりも軟化したチューインガム咀嚼時,特に片側咀嚼時に最も安定し,咀嚼運動が身体重心動揺に与える影響を調べる際には,片側咀嚼が最適であることが示唆された.