2025 年 100 巻 1 号 p. 18-30
ネジバナ属 Spiranthes Rich. は,アメリカ大陸,ユーラシア,オーストラリアに広く分布し,約50種を含む.しかし,形態的特徴だけでは,近縁種の識別が困難であることが知られている.本研究では,熊本県熊本市で新たに発見された子房や花序軸に毛がない未記載分類群の可能性のある「ネジバナ」について,形態学的および系統学的データに基づき,その実態を解明した.その結果,この「ネジバナ」は,ハチジョウネジバナ S. hachijoensis Suetsugu と形態的に似ているが,S. hachijoensis は自動自家受粉に特化しており柱頭には小嘴体が発達せず,花粉塊には粘着体がない一方で,この「ネジバナ」の柱頭には発達した小嘴体があり,花粉塊にも粘着体があることがわかった.また,系統学的解析により,この「ネジバナ」が S. hachijoensis と極めて近縁であるが,遺伝的に区別できることが示された.これらの結果から,この「ネジバナ」を S. hachijoensis の変種ヒゴノナンゴクネジバナ(新称)S. hachijoensis var. kumamotoensis Suetsuguとして記載した.