植物研究雑誌
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アジア産リュウキュウベンケイソウ属の分類学的研究1. リュウキュウベンケイソウとその近縁種
大場秀章
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2003 年 78 巻 5 号 p. 247-256

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抄録

リュウキュウベンケイソウ属 (Kalanchoe) は, アフリカ, 特にマダガスカル島を中心とした熱帯・亜熱帯で多様化したベンケイソウ科の 1 属で, まだ変異がよく解析されておらず分類法が確定していない. アラビア半島以東のアジア産種についてはこれまで全域を対象とした分類学研究は皆無の状況である.

 タイやネパール植物誌のベンケイソウ科を纏める必要があり, これまでリュウキュウベンケイソウとその近縁種について断続的に研究を行ってきた研究の一部をまとめて発表した.

 リュウキュウベンケイソウはインド・スリランカ以東のアジア地域に広く分布する (Fig. 1). その学名には古くから用いられてきた Kalanchoe spathulata に替わって, 最近では K. integra を用いることが多かった. 私自身, 平凡社刊の 「日本の野生植物」 や英文版日本植物誌 (Flora of Japan, IIb) でこの見解を採用した. しかるに, 改めて Medikus の原記載を読んで, Kalanchoe integra が紅色の花冠を生じることを知った. またその後サウジアラビアの自生地でもこれを確認した.

 リュウキュウベンケイソウ属での花冠の色は種により一定でしかも安定しており, 多くの場合, 種の識別形質として用いられているものである. また, 私自身のサウジアラビアでの観察で, 他の形態のよく類似した紅色花の種と黄色花の種で, 花色が重要な区別点になることを知った. ベルリンの Raadts は Kalanchoe integra をアラビア半島特産の K. deficiens の異名としているが, この扱いは適切であると考える. 一方, Kalanchoe spathulata は, Kalanchoe crenata との区別が困難との説もあったが, Fig. 1 に示すように分布域を異にしており, Kalanchoe spathulata には Kalanchoe crenata の花序枝や花柄などに生じる密生する腺毛がないことや葉の鋸歯などの違いで区別することができる.

 リュウキュウベンケイソウの正しい学名は Kalanchoe spathulata となる. この種の変異には地方性があり, 分布域が限定される 7 つの変種を区別した. 南西諸島の個体は台湾南部の鵞鑾鼻から記載された var. garambiensis に似てくるが, この変種に含められるかどうかはさらなる研究が必要である. なお, リュウキュウベンケイソウには, 私自身これまでリュウキュウベンケイの和名を採用してきたが, 植物名であることがよりはっきりするリュウキュウベンケイソウという呼び方を今後は用いたい.

 本論文ではリュウキュウベンケイソウに合計 3 つの新変種と 4 つの新組合せ, Kalanchoe ceratophylla には var. indochiensis という 1 変種を新たに発表した. 各分類群毎に異名とその分布域を示し, 多くの分類群では検討した標本を挙げた.

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© 2003 植物研究雑誌編集委員会
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