植物研究雑誌
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マメ科ヌスビトハギ属の花粉形態
葉繽大橋広好
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2007 年 82 巻 3 号 p. 145-159

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抄録

ヌスビトハギとその近縁種は多くの形態的な特徴によって典型的な Desmodium と異なることが明らかにされ,分子系統上も単系統であり(Kajita and Ohashi 1994),別属として扱われる(Ohashi and Mill 2000, Ohashi 2006).ヌスビトハギ属の学名は Hylodesmum と命名され, Desmodium はシバハギ属と改名された(大橋 2002. 本誌 77: 5960).

 ヌスビトハギ属には14種が含まれている.この属の花粉形態は幾瀬(1956)の報告に始まり,Ohashi(1973)の研究で大部分の種について明らかにされた.しかし,これらは主に光学顕微鏡による観察であったため微細形態と構造は十分には明らかにされなかった.Chen and Huang (1993)は台湾の D. laxum subsp. leptopus と subsp. laterale (= H. leptopus, H. laterale )の花粉を電子顕微鏡で観察したが,1種だけであったためヌスビトハギ類としての特徴を見いだせなかった.本研究ではヌスビトハギ属の独立性を支持する証拠の一つとして,花粉特性を明らかにするために,9種(アジア産 5種, アメリカ産 3種, アジア・アフリカ産 1種)の花粉の微細形態と内部構造を走査型および透過型電子顕微鏡を用いて調べた.

 ヌスビトハギ属の花粉は外壁に特徴があり,内層が厚く,柱状層が密で,底部層が不連続である.フジカンゾウ H. oldhamiiH. repandum (アジア・アフリカに分布)を除く他の 7種には共通の花粉形態と微細構造が見られた.北アメリカに隔離分布する3種もアジア産種と基本的に一致している.これらの花粉特徴は3溝孔型,長球状球形から亜長球形,表面模様が微小網目型と細しわ模様である.しかし,フジカンゾウでは表面模様は網目型からしわ模様型で,網目が癒合して不規則なしわとなる.層構造は柱状層が分岐した不規則な小柱で構成される.この構造はヌスビトハギ連の中では他に知られていない.また, H. repandum の花粉は溝がほとんど発達せず,3孔型と思われる.ただし, Ohashi (1973) は H. repandum の花粉は3孔型あるいは4孔型に見えるが3溝孔型あるいは4溝孔型であるとした.ヌスビトハギ属の他の種では3溝孔型である.また, H. repandum の花粉の形は亜偏球形で,ヌスビトハギ属の他の種と異なっている.

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© 2007 植物研究雑誌編集委員会
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