植物研究雑誌
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アジア産トウヒレン属(キク科)の分類学的研究IX.北海道からの1新種と本州からの2新種
門田 裕一
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2023 年 98 巻 1 号 p. 1-12

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抄録

キク科トウヒレン属において,北海道からツルイトウ ヒレンSaussurea yachiyotakashimana Kadota,本州からオヌカトウヒレンS. ochiaiana KadotaとトヨグチトウヒレンS. toyoguchiensis Kadota の3 新種を記載した. ツルイトウヒレン(基準産地:北海道阿寒郡鶴居村)は頂生の花序が複散房状となり,筒形の総苞をもつ頭花を多数つけ,茎や葉の下面に腺点があって粘る点でコンセ ントウヒレンS. hamanakaensis Kadota とススヤアザミS. duiensis F.Schmidt に似る.ツルイトウヒレンは①枝は広角度に伸長して先端が下垂し,②茎葉が長さ15–30 cm とより長く,③総苞中片と外片に紫色の縁取りを欠く点でこれらの2 種と異なる.ツルイトウヒレンは林下 の湿地に生える植物である. オヌカトウヒレン(基準産地:広島県庄原市東城町多飯が辻山)は狭筒形の総苞をもつ小型の頭花を散房状 につけることで,キリガミネトウヒレンS. kirigaminensis Kitam.とネコヤマヒゴタイS. modesta Kitam.に似るが, ①横走する長さ10 cm にもなる太い地下茎をつけ,②経 年個体では複数の花茎をこの地下茎から立ち上げ,花茎の枝は広角的に長く伸長し,③葉がやや肉質で鈍い光沢がある点で異なる.さらに,オヌカトウヒレンはキリガミネトウヒレンからは④総苞外片が狭卵形で先端は短く伸び,⑤茎葉の鋸歯は低平である点で異なり,ネコヤマヒゴタイからは⑥頭花が無柄で,⑦湿地に生える点で異なる.オヌカトウヒレンは蛇紋岩植物であり,また同時に湿地の植物でもある. トヨグチトウヒレン(基準産地:長野県下伊那郡大鹿村豊口山)は小型の多年草で,花期に根出葉が生存し,頭花 が普通単生することなどで,シラネヒゴタイS. kaialpina Nakai に近い.しかし,トヨグチトウヒレンは,①総苞は筒形で緑色,長さ10–12 mm,直径5–6 mm となり, ②総苞片はやや革質,外片は紫色の縁取りを欠き,③根出葉と下部の茎葉の葉身は粗い鋸歯縁となり,④痩果がより長い点でシラネヒゴタイと異なる.トヨグチトウヒレンは石灰岩植物である.

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