植物研究雑誌
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日本国内の主要文献に登場しないサハリンウシノケグサ Festuca probatovae(イネ科)の新産地
中川 博之 佐藤 謙田中 徳久首藤 光太郎
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2024 年 99 巻 3 号 p. 182-189

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抄録

Festuca probatovae は,サハリンと日本の固有種とされるイネ科の多年草である.本種はサハリンで採集されたホロタイプと,荒川岳と木曾御嶽山で採集されたパラタイプに基づいて 1982 年に発表されたが,国内の主要な文献には登場しない.著者らは,2017,2019 年に北海道大雪山系忠別岳において,F. probatovae と思われる植物を採集した.採集した植物は 7 つの狭い厚壁組織と長さ 0.9–1.3 mm の葯をもち,これらの形態を F. probatovaeの形態記載,近縁種シンウシノケグサ F. ovina などと比較し,本種と同定するに至った.また神奈川県立生命の星・地球博物館 KPM に保管されている荒川岳産標本は,本種パラタイプの重複標本であった.本研究では,観察・採集した標本に基づいて,日本国内の本種の形態や分布を整理した.また,荒川岳産と木曾御嶽山産のパラタイプはいずれもタカネウシノケグサF. ovina var. tateyamensisと同定されていたが,当変種が現在シンウシノケグサのシノニムと認識されていること,タカネウシノケグサのホロタイプが F. probatovae ではなかったことから,基準産地にちなんでの新和名サハリンウシノケグサを提案した.

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