2024 年 99 巻 4 号 p. 221-241
日本および中国の市場に流通する生薬材テンモンドウ(天門冬)の基原植物の種レベルの多様性を明らかにするために,クサスギカズラ Asparagus cochinchinensisとその近縁種の種鑑別用DNAマーカーを開発し,市場調査を行った.開発のために Asparagus属 21種,107サンプルの ITS領域の塩基配列を決定し,一部の種については葉緑体DNA の trnL-trnF遺伝子間領域も調査した.その結果,A. meioclados と A. trichoclados を除いて,調査した種は互いに区別することができた.テンモンドウの日中市場流通品238サンプルについてDNA鑑定を行った結果,最も多い基原種はA. cochinchinensis (56%),続いてA. subscandens (25%),A. taliensis (16%),A. lycopodineus (2%),およびA. meioclados またはA. trichoclados (0.4%) であった.中国市場からはこれら全種が見い出され,日本市場からはA. cochinchinensis,A. taliensis,A. subscandens の3種が認められた.栽培品として販売される市場品からは,A. cochinchinensis,A. taliensis のみが見い出された.A. subscandens と判定された生薬のうち多くは中国産と表記されていたが,ミャンマー産 A. subscandens と DNA型が類似していたことから,それらがミャンマーから輸入されていると推定された.