2022 年 64 巻 1 号 p. 22-32
高等学校「生物」の教科書は,以前に比べ遺伝子の機能や働きに関連する内容が多く見られるようになってきた.高等学校学習指導要領には,生物の目標として「観察,実験などを行い,生物学的に探究する能力と態度を育てるとともに,生物学の基本的な概念や原理・法則の理解を深め」と記述されているが,DNAを扱って新たな原理や法則の理解を深めるような教材は少ない.そこで,バラ科植物ニホンナシの自家不和合性遺伝子(S遺伝子)を対象に,PCR法や電気泳動法を使い自家不和合性の仕組みについて理解できる実験教材の開発を試みた.ニホンナシは多くの品種でS遺伝子型が明らかであり,掛け合わせる品種の組み合わせによっては,想定されるうちの一部の遺伝子型の種子がS遺伝子の働きにより生じない.そこで,人工授粉したニホンナシにおいて,掛け合わせによっては単純なメンデルの法則で予測される遺伝子型が生じないことを,アレル特異的PCRによって確認し,自家不和合性の仕組みについて理解でき,S遺伝子を使って遺伝子の働きを考える教材を考案した.高校2年生の理系生物選択者18名に実験及びアンケート調査を実施したところ,実験の経験とその後の考察を通じて自家不和合性の理解が深まり,生徒の遺伝子に関する興味関心が高まる教材となる可能性が示唆されたと同時に,実践する上で検討すべきいくつかの課題も明らかとなった.