生物教育
Online ISSN : 2434-1916
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64 巻, 1 号
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研究論文
  • 梅澤 和也, 角田 裕志
    2022 年 64 巻 1 号 p. 2-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/14
    ジャーナル フリー

    乱獲や生息地破壊,人間の適度な関わりの低下,化学物質や外来生物,大規模な気候変動など,人間活動による生物多様性の低下が指摘されるようになり,高等学校生物における生物多様性と生態系に関する教育の重要性が増している.本研究では,「生物の多様性と生態系」の授業で用いることのできる「淡水魚類の生物多様性」教材を開発した.まず,埼玉県川越市の新河岸川をフィールドワークの調査地に設定し,3季136回の魚類採捕調査・環境調査を行った.各回の調査では,調査区間ごとの魚類(種名・個体数),環境(水温・水深・流速・水際植生の割合)のデータを記録し,教材用データセットとして整理した.高等学校において本教材を用いた授業実践を行った結果,学習者は平均値,分散,標準偏差,箱ひげ図,散布図,相関係数など適切な統計学的方法を用いて仮説検証を行った.今後は,本教材を用いた授業実践を行い,環境教育,生態学,統計学の3つの領域と,探究型授業の教材としての学習効果を検討していく予定である.

研究報告
  • 向陽 康人, 山本 将也, 笠原 恵
    2022 年 64 巻 1 号 p. 9-21
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/14
    ジャーナル フリー

    現在高等学校で学習する「生物」では,バイオテクノロジーに関する内容を学習することになっている.これらの実験は行う必要があると考えている教員が多いにもかかわらず,「実験機器や試薬がない」,「授業時間が足りない」,「予算が足りない」といった理由からアンケートに回答した教員の20%程度しか実施されていないことが筆者の調査から明らかになっている.そこで本研究では大腸菌の形質転換,PCR,電気泳動について,実験の実施を妨げている上記の問題を解消し,関連性を持って連続的に実験できるような教材開発を試みた.その結果できるだけ身近な材料を用い,安価で授業時間内に実験を行うことのできる教材を開発することができた.また,開発した教材を用いて授業実践を行い,授業で用いた際の効果や,生徒の学力定着の状況を実践後のアンケートにより調査した.実際に授業で活用した結果,概ね授業でも問題なく実験ができ,結果も得ることが出来た.さらに70%以上の生徒が好意的な感想を述べていたが,手動PCRなどでいくつかの改善点も見つかった.学力の定着状況の調査では,実験を実施していない生徒と比較することで,教材の有効性を調べた.アンケート結果より,実験を実施した生徒の正答率が未実施の生徒の正答率を上回ったため,今回開発した教材で実験を実施することは,生徒の学力定着に寄与すると考えられる.

  • PCRによる遺伝子型検出系の確立と授業実践に向けた検討
    水口 智人, 三宅 崇
    2022 年 64 巻 1 号 p. 22-32
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/14
    ジャーナル フリー

    高等学校「生物」の教科書は,以前に比べ遺伝子の機能や働きに関連する内容が多く見られるようになってきた.高等学校学習指導要領には,生物の目標として「観察,実験などを行い,生物学的に探究する能力と態度を育てるとともに,生物学の基本的な概念や原理・法則の理解を深め」と記述されているが,DNAを扱って新たな原理や法則の理解を深めるような教材は少ない.そこで,バラ科植物ニホンナシの自家不和合性遺伝子(S遺伝子)を対象に,PCR法や電気泳動法を使い自家不和合性の仕組みについて理解できる実験教材の開発を試みた.ニホンナシは多くの品種でS遺伝子型が明らかであり,掛け合わせる品種の組み合わせによっては,想定されるうちの一部の遺伝子型の種子がS遺伝子の働きにより生じない.そこで,人工授粉したニホンナシにおいて,掛け合わせによっては単純なメンデルの法則で予測される遺伝子型が生じないことを,アレル特異的PCRによって確認し,自家不和合性の仕組みについて理解でき,S遺伝子を使って遺伝子の働きを考える教材を考案した.高校2年生の理系生物選択者18名に実験及びアンケート調査を実施したところ,実験の経験とその後の考察を通じて自家不和合性の理解が深まり,生徒の遺伝子に関する興味関心が高まる教材となる可能性が示唆されたと同時に,実践する上で検討すべきいくつかの課題も明らかとなった.

  • ―タマネギの外側の細胞は大きい,核も大きいのか?―
    村岡 一幸
    2022 年 64 巻 1 号 p. 33-39
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/14
    ジャーナル フリー

    探究活動において,得られた結果は客観的に分析しなければならない.特に自然科学などにおける探究活動では,調査や実験で得られたデータにばらつきがあり,結果の捉え方が問題となることも少なくない.一方,生徒の探究活動では,得られた結果を客観的に捉えず,自らの仮説に合致するような解釈や実験者の都合の良い解釈が散見される.実験結果は同じであるにもかかわらず,主観的な判断により異なる結論が導かれる探究は,サイエンスではない.そこで,数値データを用いる探究活動の基礎知識として,統計学的な分析により,結果をより客観的に解釈する方法を紹介した.統計学的手法を知ることにより,主観的な判断に陥らない探究活動の進め方を身につけさせるものである.統計的手法を生徒たちに体験させるため,タマネギの鱗片葉を材料にして,中心部の葉と外側の葉における細胞の長径と核の長径をそれぞれ10個ずつ顕微鏡下で測定を行った.これらのデータを生徒にt検定を用いて分析させ,併せてt検定の簡易な説明もおこなった.ほとんどの生徒は,細胞の長径については有意な差が得られたが,核については有意な差が認められなかった.少数の生徒は異なる結果となった.生徒は,統計処理を行った結果に基づき,細胞や核の選び方,サンプルサイズの適切さについて考察し,客観的な評価としての統計的手法の重要性を意識できるようになったと考えられる.本研究の実践を通して,生徒は統計学的検定に興味をもつようになったことが示唆された.

研究資料
  • 本橋 晃
    2022 年 64 巻 1 号 p. 40-46
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/14
    ジャーナル フリー

    高等学校「生物」において,光合成に関する実験・観察で最もよく行われているものはクロマトグラフィーによる光合成色素の分離であろう.本校では他に気体検知管を用いた二酸化炭素の吸収,酸素の放出の測定,吸収スペクトルの観察を行っている.今回それらに加え,暗反応の主要なタンパク質であるルビスコに着目した.具体的には,SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により,ホウレンソウの葉の抽出液からルビスコを容易に分離,検出する実験を取り入れた授業を立案し,実践した.

  • 鈴木 彰, 越知 丈裕, 池田 頼明, 酒井 雄志, 吉崎 真司, 福田 達哉
    2022 年 64 巻 1 号 p. 47-59
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/14
    ジャーナル フリー

    本研究では,中学校の理科第2分野,高等学校の「生物基礎」と「生物」で利用可能な微生物による有機物の分解に関わる新規教材の開発を目的として,菌類による竹稈の培養系の導入に着目した.リグニン分解の強さとPDA平板培地での成長の速さを指標としてトキイロヒラタケを供試菌に選択して,同菌による竹稈の培養系を用いた教材開発を試みた.トキイロヒラタケを,マダケの竹稈紛のみからなる培地を用いて,25°Cで袋培養したところ,同菌は培養3ケ月以内に子実体原基を形成した.竹稈紛の乾燥重量の減少率は,培養3ケ月で約26%に達し,セルロース量,ヘミセルロース量,リグニン量も培養開始時に較べて有意に減少した.本教材の教育現場への導入を容易にするため,前記の植物細胞壁主要化学成分の簡易分析法を確立した.確立した竹稈紛の培養系は,栄養添加物を伴わない条下での分解試験が可能であったことから,既存の栄養添加物を必要とする木粉や紙類を用いるきのこの栽培教材に較べて,木質バイオマスの分解の動態の追跡に適した定性的・定量的教材と判断した.

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