2022 年 64 巻 1 号 p. 47-59
本研究では,中学校の理科第2分野,高等学校の「生物基礎」と「生物」で利用可能な微生物による有機物の分解に関わる新規教材の開発を目的として,菌類による竹稈の培養系の導入に着目した.リグニン分解の強さとPDA平板培地での成長の速さを指標としてトキイロヒラタケを供試菌に選択して,同菌による竹稈の培養系を用いた教材開発を試みた.トキイロヒラタケを,マダケの竹稈紛のみからなる培地を用いて,25°Cで袋培養したところ,同菌は培養3ケ月以内に子実体原基を形成した.竹稈紛の乾燥重量の減少率は,培養3ケ月で約26%に達し,セルロース量,ヘミセルロース量,リグニン量も培養開始時に較べて有意に減少した.本教材の教育現場への導入を容易にするため,前記の植物細胞壁主要化学成分の簡易分析法を確立した.確立した竹稈紛の培養系は,栄養添加物を伴わない条下での分解試験が可能であったことから,既存の栄養添加物を必要とする木粉や紙類を用いるきのこの栽培教材に較べて,木質バイオマスの分解の動態の追跡に適した定性的・定量的教材と判断した.