バイオフィードバック研究
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バイオフィードバックと心身の気づき : 内受容感覚と情動の気づき(シンポジウム2014:バイオフィードバックの付加的な価値を探る)
神原 憲治
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2015 年 42 巻 1 号 p. 19-26

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抄録

バイオフィードバックの効果は,本来の心身の調整のほかにさまざまな観点から捉えられる.心身医学の観点からは,生理的状態を意識化しながら調整するプロセスの中で,自身の心身の「気づき」による全人的な効果が想定され,それが身体の調整という本来の効果をも促進する.人間が健康を保つ上では,自律神経系など意識下の調整機能と,意識上の調整につながる気づきの両者が重要で,互いに関係し合いながら恒常性の維持に関わっている.バイオフィードバックは意識上・意識下の調整機能をつなぎながらその働きを高める.したがって,心身の気づきと調整機能の関係性は,心身医学的なバイオフィードバックの付加価値を考える上で重要である.心身の気づきの基盤となるのは「内受容感覚」であり,これには島皮質など,大脳辺縁系と新皮質系の連携に関与する部位が重要な役割を果たしている.内受容感覚の生理基盤から,自律的な調整機能と心身の気づきは密接に関係し合いながら恒常性の維持に関わっていることがわかる.また,Laneらの情動調整モデルによると,情動の気づきは副交感神経機能を介して負のフィードバックシステムを形成し,情動調整に関与している.心身の気づきの低下がみられる心身症や機能性疾患群における,精神生理学的ストレス反応についての我々の研究では,生理指標のベースラインでの緊張亢進とストレス反応の低下を特徴とする群が存在し,心身の気づきの低下に関与している可能性が示唆された.情動の気づきの低下であるアレキシサイミアが,心身症の主な病態の一つとして心身医学での主要テーマの一つとされてきたが,バイオフィードバックに関係が深い身体感覚や気づきの低下(アレキシソミア)が,その基盤として関わっていることが示唆されている.その生理基盤としての内受容感覚,さらにそのベースとなる自律神経などの調整機能という多層構造で,恒常性の維持や心身の調整が行われていると考えられる.バイオフィードバックは,身体内部の生理的状態を計測,視覚化してフィードバックし,本来は意識的にコントロールできない身体調整を試みるものである.従って,純粋に自律神経などの調整機能を高めるのと同時に,内受容感覚を高め,心身の気づきも促すという,複数のレベルをつなぎながら同時にアプローチできるツールとして,他にはない可能性を持った方法であると言えよう.

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© 2015 日本バイオフィードバック学会
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