抄録
がん患者は、身体症状のみならず、再発・転移に対する心配や漠然とした不安感、さらには人間関係のストレスなどの多様な問題を抱えている。これらのがん患者の抱える多様な問題に対して心理療法・精神療法による対応が行われている。最近では特に、行動医学的方法の一つである認知行動療法が注目されている。そこで筆者らは、平成19年度から厚生労働科学研究費補助金がん臨床研究事業「がん患者に対するリエゾン的介入や認知行動療法的アプローチ等の精神医学的な介入の有効性に関する研究」(明智班)において、認知行動療法の一つに分類される問題解決療法を日本のがん患者向けにアレンジしたプログラム開発を行った。問題解決療法の有効性は、海外では多数報告され、問題解決療法による介入によって、患者の問題解決のための対処能力が向上し、その結果患者が日常の様々な問題に対して効率的に対処できるようになり、精神状態やQOLを自らの力で維持できるようになると言われている。そのため、がんと診断され治療する過程で様々な心理社会的問題が日常的に生じるがん患者にとって、問題解決療法は最も適した心理的介入の一つと考えられる。そこで研究班では、術後乳癌患者36名を対象として、つらさと支障の寒暖計、抑うつと不安の尺度であるHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)日本語版を用いたスクリーニングを行い、心理的苦痛が大きいとされた患者に対して、5週間の問題解決療法プログラムによる介入を実施した。プログラムを完遂し、フォローアップ可能であった19名について解析を行った結果、介入前と3ヶ月後のフォローアップ時のHADS得点に統計的有意差がみられ、介入前後で得点の平均値は6.05 (SD=1.94) 点減少していた。また介入の効果量は0.82と高いことが示されたことから、この介入プログラムが、抑うつ、不安などのストレスを低減しQOL向上に寄与したと考えられる。このように問題解決療法は日本のがん医療において有効性を持った介入方法の一つであると考えられ、がん医療における問題解決療法の必要性と普及の方法について検討する必要がある。