抄録
異なった事前情報により操作された刺激のもつ嫌悪性の質と強度が不安の発生と解消に及ぼす影響を調べるため,実験前操作として嫌悪刺激を直接体験(D・V)する条件と他者が嫌悪刺激をうけている場面を観察する条件(V・D)を設け,いずれの事前情報が不安の発生と解消により深い関連をもつかを2実験を通して検討した。その結果以下の諸点が明らかにされた。(1)事前の嫌悪度を同程度にしたV・EとD・Eは,事前情報という意味では同じでも,その質の違いはその後の不安の発生と解消に大きな差異を生み出す。(2)生理的指標でみる限り,事前情報を与えることは一般に不安の低減に役立つ。(3)特にD・Eの生理的覚醒を抑える効果は著しい。(4)主観的指標でみる限り,V・Eは不安の程度を高め,D・Eは逆に不安低減の効果をもっている。(5)D・EとV・Eの矛盾が新しく不安発生の要因となるのは主観的指標においてみられるのにすぎず,生理的指標においては優勢な強さの情報の効果が主にあらわれる。(5)あえて一般化を急ぐならば,嫌悪刺激の間接体験は不安を高め,直接体験は不安を低める効果をもっていると考えてよい。