文化人類学
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特集 グローバリゼーションと公共空間の変容
ウチとソトの交渉とずれの生成
ボンベイ・フラットと市民の活動からみた公共空間
田口 陽子
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ジャーナル 認証あり

2017 年 82 巻 2 号 p. 163-181

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抄録

本稿は、インド、ムンバイにおけるフラット(集合住宅)を単位とした市民活動を通して、公共空間の変容を再考する。近代西欧における自由で政治的な討議の場としての市民的公共性は福祉国家と文化産業の支配によって損なわれ、生権力の拡大によって公共空間の性質は変化したと議論されてきた。グローバル化と新自由主義が浸透したとされる現代社会でも、やはり公共空間の私有化と分断化が問題視されている。このように、今日の私たちの社会では「公と私」の枠組みやそこで想定されている西洋的な「市民」モデルに合わない現実がある一方で、公共空間での他者との共存を担保する公私の区分に倫理的な期待が込められてもいる。この状況を捉えなおし別の視点を提示するため、本稿は、植民地期以降「公と私」の問題に取り組んできたインドの事例から、西洋モデルと交渉しながら変化してきたローカルな空間規範と自他の関係を検討する。

経済自由化の進展に伴い、インドの都市部では美化運動や反腐敗運動などの市民活動が興隆している。これらの活動は「新中間層」と呼ばれる市民が公共空間の排他的支配を強めるものとして批判されてきた。これに対して本稿は、新自由主義が一様に浸透するのではなく、異なる権力や管理の領域がずれを含みながら配分される中で、人々が概念や実践を再編していく様相に注目する。まず、西洋的な「公と私」を部分的に取り込んできたインドにおける「ウチとソト」の枠組みを分析したうえで、植民地期のボンベイで「ウチとソト」がどのように西洋式のフラットに組み込まれ人々の居住空間を変容させたのかを例示する。さらには2010年代のムンバイ市行政と市民のパートナーシップ事業を事例に、活動家の空間/自己認識を考察する。以上を通して、インドにおいては「公と私」が「ウチとソト」と結びつくことで異なる形で文脈化され、そこで生じるずれからウチとソトの交渉が繰り広げられていることを論じる。

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2017 日本文化人類学会
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