文化人類学
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特集 インフラを見る、インフラとして見る
ラオス首都ヴィエンチャンの可視的なインフラと「擬似−近代」的なるもの
難波 美芸
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2018 年 83 巻 3 号 p. 404-422

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抄録

ラオスの首都ヴィエンチャンでは、1990年代から、開発援助による首都の都市開発が本格化し、都市景観が大きく変わってきた。だが、その開発は局所的であり、舗装道路や堤防などの近代的な構造物が外国人や海外メディアに触れるエリアに集中して建設されている。こうした構造物を、インフラに備わっているとされる「本来の」役割を持続的に果たすよりも、ラオスが近代化したふりをするための表面的なものだとして否定的に捉える解釈は、先進国出身の外国人などからよく聞かれる。このような「表面的」とされるインフラ整備を、いわば擬似的な近代化でしかないとする見方の背後には、自他を差異化しようとする意図、あるいは類似への拒絶という他者化の問題を見出すことができる。このような他者化の問題には、アフリカ都市部の植民地状況における模倣の実践と、それに対する当時の植民地行政官や人類学者による解釈と類似した構造が見られる。本稿では、このような人類学における古典的な問題を現代の開発援助の文脈から検討していく。一見、非合理的なインフラのあり方を、差異化の道具とすることなく、それが生み出す効果を理解するため、本稿では、ラオス側が進めるインフラ整備を「インフラストラクチャー・フェティシズム」という概念を通じて理解することを試みる。それによって、この極めて可視的なインフラの呪物的な側面と、世界と繋がる媒体として働く機能的側面が表裏一体となって、どのように開発現場の現実を作り出しているのかを考察し、開発援助によるインフラ整備の一つの様態を描き出すことを試みる。

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2018 日本文化人類学会
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