2018 年 83 巻 3 号 p. 423-440
ネパール東部、エベレストの南麓に位置するソルクンブ郡クンブ地方は、著名な山岳観光地である。シェルパ族の人々が住むこの地域には、年間三万人以上の外国人観光客が訪れる。険しい山岳地帯であるクンブ地方では、山道はしばしば天候変化によって消失する一方、人々は麓の車道から山頂のロープに至るまで一括して「道」と言及する。本稿の目的は、こうした山道をインフラストラクチャーの観点から分析することである。
まず第Ⅰ章にて本稿の射程と概要を示したのち、第Ⅱ章では道とインフラをめぐる人類学の議論を概観する。
続く第Ⅲ章ではエベレスト地域の歴史を確認する。エベレストを擁するクンブ地方の山道は、シェルパ族の移住の道から交易路を経てヒマラヤ探検の道となり、現在は観光の道となった。現在の山道は、シェルパ族の人々や社会とセットになることで世界各地から訪れた観光客が高山中を移動することを可能とし、また観光に依存する地域の生活を支えている。
第Ⅳ章では山道をめぐる人々の実践と語りを、ネパール語の「道」および「発展/開発」の概念に焦点を当てながら取り上げる。そのうえでエベレスト地域の山道の場合には、インフラについての一般的な議論とは異なり、完全に意識に上らないほどの透過性に達するのではなく、かといって容易に通行を許さないほど困難な対象として直面するのでもない、半透過的な状態を保つことがインフラたる要件であると指摘する。