文化人類学
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文化遺産、ツーリズム、防災――レジリエンスの観点から
インドネシア・バリの文化的景観
世界遺産とコミュニティのレジリエンス
岩原 紘伊
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2020 年 85 巻 2 号 p. 290-307

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抄録

 2012年、インドネシア・バリのスバックと呼ばれる灌漑組織とその実践が「バリ州の文化的景観──トリ・ヒタ・カラナの哲学を具現したスバック・システム」として世界遺産に登録され、バリ観光に新たな付加価値がもたらされた。しかし、スバックによる水田稲作は、衰退の一途をたどり始めている。スハルト政権下で進められた観光開発はバリ経済の成長に貢献したが、多くのバリの農民にとっては生業の維持を脅かす「災害」ともいえる状況を生み出している。水田が観光用地として急速に売却されるようになっていること、大量の観光客の流入により農業用水不足が深刻化していることなどである。

 本論は、バリの文化的景観を代表する棚田で知られるタバナン県プヌブル郡ジャティルウィ村を事例として取りあげ、世界文化遺産登録を契機として導入されたコミュニティベースト・ツーリズム(コミュニティが主体となって展開されるツーリズム)が、観光開発がもたらす脅威に対抗する手段としてどのように位置づけられているのかを検討する。このなかで特に注目するのは、こうした動きにおける外部アクターの関与である。そうしながら、世界遺産登録後に水稲耕作者というだけではなく、景観の保全者という新たな役割を付与されたスバック・コミュニティのレジリエンスについて論じる。

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2020 日本文化人類学会
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