本論では、2008年に発生した四川大地震の災害後復興における地震被害の遺跡化とツーリズムの関わりに焦点を当てる。観光は震災後の産業復興の重要な柱となり、地震の痕跡を保存した地震遺跡は新たな観光資源の1つに位置づけられた。政府は観光を軸として短期間のうちに大規模な開発を進め、地震遺跡の保存と観光地化、再建不可能と判断した地域からの人々の移住、農業村から民俗観光村への転換などを実施した。政府はまた2年半で復興終了を宣言し、共産党の強いリーダーシップのもと、地震に打ち克った中国の特色ある社会主義の勝利を喧伝する。地震遺跡をめぐるツーリズムは、中国共産党に縁のある地をめぐる紅色旅游の地として、国家のレジリエンスを示す場となっている。しかし、人々の生活再建は、国家の示すレジリエンスと同じペース・道筋で進んではいない。本論では、震災から10年余が過ぎた現時点における国家のレジリエンスと生活のレジリエンスのずれを観光を通して考察し、地震遺跡をめぐるツーリズムの持つ意味を検討する。