抄録
本研究の目的は,中学生の心の居場所感と自己表現に伴う感情との関連とを調べ,教師が居場所感を感じていない中学生を早期に発見することにつながる要因を見出すことである。関西の公立中学校一校で,中学生232名を対象に,「自己表現と自己の役割」に関する自由記述,居場所の心理的機能尺度, 自己表現スタイル尺度を含む調査を実施した。居場所の心理的機能尺度を投入変数としたクラスター分析から,居場所感の高・中・低群の3つの類型が抽出された。分散分析とFisherの直接確率計算法の結果から,居場所感が高い中学生は,自己表現に伴うポジティブ感情が多く,他者との調和を乱すリスクを冒しても言うべきことは言う傾向があることが明らかになった。また,居場所感が中程度の中学生は人間関係に腐心し,場面によっては非主張的な自己表現や間接的な自己表現が多くなることが示された。最後に,居場所感が低い中学生は,アサーティブな自己表現が少なく,感情に乏しい自己表現が多い傾向がみられた。中学生の,友人と居る場で安心して自由に振舞えているか,場面に則した感情表現ができているか否かは,教師など周りの大人が居場所感の高低を知る一つの指標になることが示されたと言える。