抄録
本稿では胃ろうのことを中心に食べることと生きることの関係を考えていく。まず,終末医療における死の位置づけを再吟味するとともに,食べることの文化的意味合いを確認する必要があるだろう。その後,胃ろうへの評価を検討していく。胃ろうがすべて悪いわけではないだろう。どのような場合に胃ろうが問題になるか,自分らしい生き方をまっとうするためにはどうすればよいかを考えていく。そして終末期における自己決定の可能性,尊厳という概念の位置づけなども検討する。しかし自分で終末期の治療のあり方を決めるという場合に,理論的な基礎として自己決定権の他に尊厳の概念がよく用いられる。だが,尊厳が何かは明確ではなく,尊厳概念の吟味が必要になる。この際には,自己決定権と強く対立する固い尊厳概念や尊厳のあるなしを厳格に分けるような尊厳概念ではなく,もっと柔らかな尊厳概念が必要になるだろう。